第11話 二組の再会


「わしも老いぼれた、雷神殿、あなたよりも年が若いのに。そうじゃ、初めから神鬼殿はそうなさるおつもりだったのだ。人以外の生き物に、自分のことを知らせたのだ、この太鼓で気が付いた。わしには「詰めが甘かった」と言われたが、まんまとやられた」


「だが、あの山に人が住んでいるのは知っていた? 」


「ハハハ、それはもちろん、雷神殿。まあ、これであいこかな」


「一緒に過ごされて、神鬼に変わった所は見られませんか? 」


「それが雷神殿、なぜ私のところにと思うほど、私は神鬼殿と会ったことがなかった。もちろん、良い神だとは思ってはいたが。

じゃが、大神のこと、何か深い考えがおありになるのだろう」


「ゆっくりと過ごせているようですから、それはとても感謝していますよ」


「それは神鬼殿もそう言っては下さる。お優しい方だ、だが」


「だが? 」


「鬼の部分をほんの少し入れたことを、快く思わない神々も多くいる」


「あなたはどうお考えなのです? 指物の神」


「私は人のそばにいるから、大神の考えはわからないでもない。鬼たちに対しての慰労のようなものかとも思う。そう考えると、やはりお心が深い方だ」


「指物の神こそ本当にお優しい」


「ほめられると、やはり嫌な気はしないものだ」

「ハハハ」

二人はそのあと太鼓の部品の話をし始めた。



一方、雲の中の神鬼は太鼓を叩き終え、一息ついていたが、徐々に笑顔になっていった。


「相変わらずだな、せっかちで。雲に風の穴をあけると叔父上が嫌がるのに」


自分のすぐ横のほうを見ながら言うと、次の瞬間、雲にとても小さな穴が開き、


「神鬼!!! 」


大きな声が真横で聞こえた。今の自分と同じ年齢ぐらいの若い男だった。格好も今風で、そのまま町で歩けるような服装だった。


「知風(ちふう)元気だったか? 」


「元気・・・元気・・・元気か・・・」

そうぶつぶつ言いながら、だんだんと目が潤んできた。


「元気・・・だったかな・・・とにかく、急にお前が眠りについて、寂しくて・・・ずっと・・・四百年・・・寂しくてさ・・・」


「すまなかった。ちゃんと別れも言えなかった。大神から急な話で」


「戦国の世だったから、その惨い様子を幼いお前に見せたくはなかったんだろう。しばらくしてそれに気が付いたが・・・もしかしたら、おまえが眠りから覚める前に俺が死んでしまうんじゃないかって」


「それはないだろう、おまえだって神格なのだから」


「だが・・・下の下だ・・・」


「どうした、知風。そんなどうでも良いことを言うなよ」


「どうでもいい・・・どうでもいいか・・・神鬼・・・ 」

とにかく・・・良かった!! 良かった!! 」


知風はやっと何ものからも解放されたように、神鬼に抱きつき、

オイオイとずっと泣いた。


「目覚めていたのだから、私よりも随分と大人になっていると思ったのに。子供ぐらいいると思ったが」


「とにかく色々なことがあったんだ、雷神様からは殺されかけるし、怖かった! 」


「おまえが時々、背伸びどころではない、あまりにも分を飛び越したようなことをしたからなのだろうに」


「見たのか? それとも雷神様から聞いたか? 」


「いや、おまえから直接聞きたいと思って」


「ありがとう、神鬼・・・相変わらず優しいな・・・」


若い二人はやっと笑い合った。




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