第9話 昔の涙


「ハハハ、そんなに旨いと思ったか! 神の舌をうならせるとは大したものだ、

ハハハ」


神鬼は指物の神に話したことを、雷神にも繰り返した。だが付け加えたこともあって


「せっかく美味しいものをいただいたのに、脳の中の記憶をいじってしまって申し訳なく思ったのです」


そう言ったのだが


「さらに人生を変えたのにか? 神鬼。ハハハ、まあ良いだろう。私の知った雀が「きっと神様のお力だと思いますが、あの木があるのは、本当にありがたいことです。美味しい実をたくさんつけてくれます、ぜひお礼を申し上げたいです」と言っておった」

「彼らも年々食べ物が減っているでしょうから」

「まあそれが大きな理由ということか、ハハハ」


雷神は始終楽し気で、神鬼もそうであった。今の話、昔の話、かなり長い時間を過ごしていたが、


「叔父上、太鼓の部品のことが気になられるのでしょう? 」

「ああ、お前と一緒に指物の神のところに行こうかな」


その言葉を聞いて、神鬼はほんの少し残念そうな顔をしたので。


「わかった、わかった、太鼓を叩きたいのだろう? 私が一人で指物の神のところに反対に行こう。お前はここに残ってしばらく私の代わりをしてくれるといい」

「よろしいのですか? 」

「良いも悪いも、そのために来たのであろうに、ハハハ。私はしばらく休暇とするか。知風(ちふう)ともゆっくり会いたいだろう」

「はい、叔父上、知風はどうしていますか? 」

「うーん・・・正直あまりよくはないぞ、まあお前が目覚めたから、多少良い方向にいってくれるとよいが」

「そうですか」

「数日中に風神殿と一緒に仕事をすることになるだろうから。さて久々に地上に降りるか、じゃあ、頼むぞ神鬼」

「はい、ごゆっくり」

そう神鬼が答えると、今度は雷神が甥が来た道を引き返した。


 

雷神は自分の雲の中でつぶやいた。


「大神は何故、今神鬼を目覚めさせたのだろう。この四百年ほど、目まぐるしく変わった時期はあるまいに。なぜ今なのだ」


口はその言葉を発し、心の中には神鬼との思い出がよみがえった。



 幼い頃、神鬼はまさに鬼の子のように小さな角を持ち、かわいらしい牙が、その小さな唇から見えていた。太鼓が大好きで、よくここにやってきては叩いていた。そしてそう、今日と同じように自分に用事ができて、少しここを離れたときだった。

 

 幼い神がそうするのは当然だった。自分も叩くなとは言わなかったので、それは楽しく、思いっきり叩くと、太鼓の一つが破れてしまった。

しかし、彼は幼いとは言え神の力を持っている。自分の力で修復できると思ったのだろう。

 

だが、そうはいかなかった。


人が作ったものを、神が壊すも作り直すも簡単なこと。だが、この太鼓は楽器の神が作った、雷神の太鼓、幼い神鬼の力は全くの無力だった。

きっと神鬼にとってそれが初めて感じたことだったのかもしれない。


そう長くはない時間で戻った時には、神鬼は人間の子供と全く同じように、大きなその目に涙をあふれだす直前までためていた。


「良いのだ神鬼、そろそろ破れる時期だったのだ」

自分がそう言うと、

「ごめんなさい、ごめんなさい」

と本当に人の子のように泣き始めた。


「この四百年にあったことを、たった一日で体の中に入れたのか。

むしろ・・・そうか、何か創造的なことをしたほうが気持ちが紛れたか、神鬼」


雷神が雲を出て、空から降りようとした時


「ドン!! 」


と太鼓の音がした。


「何だ・・・鋭い良い音を出すな。これが数百年眠っていたものが出す音か? 神鬼め・・・」


楽し気に眉をひそめた。






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