第8話 叔父の神


 数分もかからぬうち、大きな雲の中に入って、すっと神鬼は立った。内側は少しくすんだような白で、その雲の上をまるで地上のように神鬼は歩いた。視界は全くよくはない。しかし


「ああ、懐かしいな、ここは変わらない」


雲の中なのに、壁があり、迷路のようになっている。

「あっと、ここは落とし穴だったな、危なかった。幼いころ叔父上に引っ張り上げてもらったな」

その場所を人間のようにひょいと飛び越えた。そうして、迷宮を穏やかな心地で進むと、次第にカタカタと小さな音が聞こえてきた。


「昔からご自分でなさるのがお好きな方だ。楽器の神もいらっしゃるのに」と意外に大きな声で言ったのは、目覚めた日に出会った、女子高生に習ったようだった。

すると、視界が急に開け、雲でちょうど良く調節された光がさす、広い場所に出てきた。


「叔父上」


神鬼はこの場所にでんと座り込んで、大きな物の小さなところを扱っている神を呼んだ。


「おお神鬼、目覚めたか。早々にいろいろやったようだな」

と笑いながら、顔を上げた。


雷神様は、神様のお姿でした。大きさは自在なのですが、今は神鬼よりも背も、横幅も一回りほど大きく、雲の色に紛れるような白銀の体、大きな目と口、角もお持ちでした。


「この太鼓は出来たばかりでな、調整中だ」

と普段は背負っている太鼓を下ろし、いかにも楽しげに扱っている。

半円状にならんだ、数個の太鼓の金具が、またカチャカチャと鳴った。



「そのようですね。皮も、装飾も美しいままだ」

太鼓には巴模様が施されており、それを神鬼はしげしげと眺めた。

「懐かしかろう、おまえが破ってしまった物はボロボロだった」

「申し訳ございませんでした、とても良い音が鳴っておりましたのに」

「ハハハ、あれから・・・これは何代目になるか。そうそう、神鬼、今は指物の神とご一緒だろう? 」

「はい、叔父上によろしくとおっしゃっておられました」

「ああ、一緒に来ていただくのだった、今、楽器作りの神は非常にお忙しいようでな、何でも天女達の笛がすべて割れてしまったので、大慌てなのだそうだ」

「彼女たちは要求が過ぎるのでしょう」

「おいおい、聞こえるぞ」

「大丈夫でしょう、天女達にはここの会話は聞こえませんよ」

「わからんぞ、時代は変わったから、ハハハ」

雷神は、また笑った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る