第3話 再会
おにぎりを食べ終え、彼を乗客と思ったバスの運転手に、頭を深々と下げるという経験をした後、椅子からゆっくりと立ち上がった。先ほどの女性が行った方向とは逆に歩き始めたが、駅で立っていたときとは違い、首を右や左に頻繁に動かしていた。
彼はこの町を歩き続けた。閑静な住宅地のように化した商店街を、川の土手を、その下にあるサイクリングロードを。学校のそばを、古い住宅が並ぶ路地を。
そして小学生たちが家に帰り始める頃まで歩き続け、ふと大きなコンクリートでできた建物の入り口で立ち止まった。彼の目には、駅で立ちすくんでいた自分と同じような姿が映っていた。白髪の女性、見覚えのある服装。だがその姿は悲しげで、またどこか苦しそうにも見えた。
自分にお茶とおにぎりをくれ、軽い冗談を言った人とは思えなかった。
彼はゆっくりと彼女の方に向かい、声をかけた。
「あの」
「え? 」
彼女は驚いた。なぜならここは公民館で、年配者や空手教室、習字教室に来る子供はたくさんいるが、この目の前にいる男性のような年齢の人は、ほとんどいないのだ。
その姿を見て彼はにっこりと、アジアの仏像のように微笑み、
「先ほどはおいしい、おにぎりをどうもありがとうございました」
「おにぎり? 」
そう言って、彼女は固まったよう二十秒ほどじっとして、
「あ! ああ! ごめんなさい、すぐに気がつかなくって。大丈夫かしら? おなかは痛くなっていない? 」
「大丈夫です、本当においしかったです、ありがとうございました」
「そう、私の孫もあのおにぎりが大好きなのよ。「お母さんより、おばあちゃんが作ってくれた方がおいしい」っていうのよ。何故かしら」
だが楽しげな彼女の顔は、風に揺れる木々の音が大きく聞こえたとたん、まるで別人のように一変してしまった。
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