外伝 万色の空_抜け部分
クンライの里ではたいそう喜ばれた。
氷乙女として認められたというのも伝わっていて、近隣の村からも使いが来て祝われるほどに。
里の娘たちはかつてに増して熱を帯びた顔でウヤルカのところを訪ねてくる。
酒の席で言ったからか。姉神の恩寵を得て女同士でも子を作れるようになったとか。
もとより女好きのウヤルカで、彼女らは氷乙女になったウヤルカの子がほしいという想いで来るのだから拒むことなどない。
清廊族の女が子を身ごもるのは冬か冬に近い時期。そういう体の作りになっている。
婚姻にあまり縛られない習慣なので、生まれた子は村全体で育てることが多い。特に北東クンライ地方では。
子供が増えるのなら食料も必要。
畑を広げる為に山の一部を均したり、害獣が入らないよう強固な柵を作ったり。
片腕で不便なこともあったが筋力なら誰よりも強い。村の者たちも手伝ってくれた。
思えばルゥナには休めと言われたのだったが、戦いとは別の向きで力を使うのは苦ではなかった。
今度は命を増やすために。
サジュやクジャから、この辺りでは手に入りにくい食材も届く。
長老が言うには昔はこういうものだったらしい。人間との争いに追われる前は。
北東部では極めて上質な金属が取れる。魔石と馴染みやすく加工に向いたもの。
それらを西部などに送り、不足しがちな食料をもらう。そうした互助関係だったのだとか。
取り戻した。
失われた、諦めかけていた清廊族の当たり前の暮らしを。
ただ戦いに勝った負けたというのとは違う面を知ることができてなんだか妙に嬉しかった。
しかし、まあ。
なんというかやはり落ち着かない気持ちがあったのだろう。
ウヤルカと夜を共にして嬉しそうな女たちを見て、なんだかどうにも。
以前は何も思わなかったのだが、妙におさまりが悪い。いや気持ちいいとかおいしいとか、そういうのは感じるのだが。
どこか噛み合わないというか、隙間が残るというのか。
足りないものを埋め合わせようと、つい色々とやりすぎてしまったかもしれない。
別の村で暮らす母の耳に入ったら苦言をもらいそうだ。力はウヤルカが上でも母には頭をあげられそうにない。
だから、冬が明ける兆しが見えたところで逃げ出すように里を出た。
お腹を冷やさぬよう厚手の腹帯を巻いた女たちと口づけを交わして、子が生まれる次の冬には戻ると約束して。
冬が明ければまたルゥナたちは忙しくなるだろう。
このカナンラダの大地は取り戻したが、人間の本拠地はロッザロンド大陸。
不気味な沈黙を保つあちらを調査する為に船を出すという話だった。海に出るとなれば、空を飛べるユキリンやエシュメノ達は絶対に欠かせない戦力になる。
「なんも考えず戦っとる方が楽じゃったな」
生きるか死ぬか。殺すか殺されるか。
食べる為でもない戦いというのは、意味を考える必要のない短絡的な愚行だったのだと今更になって知った。
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