第六幕 007話 父たる神_1
一糸乱れぬ。
まさにその表現通り、強大な力を持つ者たちが力を合わせて襲い掛かる。
示し合わせていたかのように。だが。
ダァバがここに現れることを想定していたはずがない。
実際つい先ほどまでは、激しい敵意は示すものの、どう動くべきか迷いが見えたのだ。
意図がわからない。
ダァバとパッシオの力が読み切れない。
迂闊に動けないから、ダァバが話すのを聞きながら様子を探っていた。
パッシオも全く油断などしていなかった。
この連中は、春にダァバとパッシオに手傷を負わせ撤退を余儀なくさせたのだ。
油断するはずもなく、しかしわかっていればあの程度は十分に対処できると。
おそらくダァバ自身も警戒していたのだ。
確認したいことはある。この清廊族の異常な力の根源は、もしやダァバの血を受け継いでいるからではないかと。
呪術を防いだことも、ここまで人間勢力を押し返し、打ち破ってきたという事実も。
考えてみればそれが正解かと思った。
神の血を引いているのなら、過去の歴史にないことも説明がつく。
血の探査に反応することも符合する。
そう思ったが、ダァバの結論は違った。
いくらか反応はあるが、なぜか血の探査が強い反応を示すのはこのエトセンではなく、唐突に東の方角に変化していた。
清廊族全体の数はもともと多くはない。
血縁関係だけなら、広く薄くあったとしても不思議はない。
血の探査が、狙いの魔物そのものではなく同じ種類の魔物に反応してしまうように。
強い反応は東。東北東。
なら、ダァバの血を濃く受けている者はその方角にいる。
この清廊族の女どもに反応しているのは、ダァバの血肉に混じる別のもの。
濁塑滔の成分が、反応していたのか。
話しながら導き出したダァバの結論を聞き、なるほど、と。
理解した。
納得した。
濁塑滔は、倒した者に絶大な力を与えると言われる伝説の魔物。
成長が遅く力を増すことが難しい清廊族でも、それなら説明がつく。
理解は、隙だった。
異常だと思っていたこの清廊族の一団に説明がつくと、緩んだ。
本当に微かに。
油断などしていないはずのパッシオと、ダァバの心に、針の穴ほどの小さな隙間。
――なんだ、そういうことか。
何でもないような言葉だった。
口にしたダァバにしても、聞いていたパッシオとしても。
――濁塑滔を殺して、その力を食らったのか。
その言葉のどこに端緒があったのか。魔物を殺したと言っただけなのに。
先ほどまで迷いがあった清廊族の女どもが、一糸乱れず、激情を爆発させて襲い掛かってくるとは。
遅れた。
瞬きほどだが、動き出しが遅れた。
「あ――」
速い。
だけではない。
攻撃しか考えていない。後先を考えぬ攻勢。
守勢に回らざるを得ない。
ダァバが、過去に呪術を弾き返した女の剣を弾き返す。
折れない。並の武器なら折れただろうが、そんなものではない。
真正面からの攻撃を、左手に嵌めていた魔導具の手袋で打ち返した。が、ダァバの力を正面から受けたのに数歩に満たぬ程度しか押し返せない。
続けてというか、ほぼ同時に繰り出された壱角の黒い槍を受け流し、これもまたほとんど同時のような速さで突いた紫の短槍を流し切れない。
「くっ」
「やぁっ!」
螺旋の刃が受け流そうとしたダァバの手首辺りを滑った。
鮮血が舞う。
やはり並の武器ではない。ダァバの体を傷つけるなど。
春に戦った時より格段に速く強い。
おかしい。濁塑滔を倒して力を得たにしても、春からの間にまた数段力を増すなど。
まさか濁塑滔を養殖して、何度も殺し続けているのか。
「主!」
体が流れたところに、拳を叩き込もうとする敵。
春の戦いでは、加減したパッシオの不意打ちを横から何とか防いだ少女。
これもまた春の時と動きの鋭さが違う。
「させるか!」
「っ!」
しかし、その前の槍の連撃よりは劣る。
パッシオが間に合った。
「なにっ!?」
違う。
ダァバを狙う拳を、鋼の刃よりも硬いパッシオの翼で叩き切ろうとした。
その一閃を、するりと躱す。
懐に潜り込まれた。
力ではやや劣っていても、凄まじい身のこなしと、鷹の目を持つパッシオに近い動体視力。
主を守らなければと焦ったパッシオの懐に。
「ぐぶぅ!」
腹に掌底を叩き込まれた。
眩暈がするほどの一撃。小柄な少女からは想像できない重さの。
「
詠唱。その前に。
双短槍の少女の続く攻撃を、ダァバが躱して体当たりで弾き飛ばす。そこは軽量の少女、後ろに吹っ飛んで――
「はぁ!?」
「このぉっ!」
ダァバが声を上げたのも無理はない。
双短槍の少女が、空を蹴った。というか叩いた。
魔法を使った様子もないのに、右の紫の短槍で空を強く踏みしめ、跳ぶ。
ダァバの頭を貫こうとする黒い穂先を、ぎりぎりのところで横に弾くと、双短槍の少女はダァバの後ろに流れたが。
「お前は!」
最初に弾き返した黒髪の女が再び斬りかかっている。
嵌めた手袋でその剣を受け止めるが、ダァバの動きが止まった。
「いかん!」
「あんたは!」
助けに走ろうとするパッシオに、再び格闘の少女が向かってきた。
どう考えてもおかしい。
春より多少は力を増しているとは考えても、これほどのはずがない。計算が合わない。
今のパッシオとダァバなら、不意を突かれたとしても十分に勝てる。余裕さえあるだろう。そう判断したが、まるで違う。
半年の戦いで急激に力を増したとでも言うのか。
地力を増やすには無色のエネルギーを得ることが不可欠。膨大な数の魔物が必要なはず。
そうでないのなら、何が。
まるで人間を狩ることで力を――
※ ※ ※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます