第四幕 092話 荒天に煌めく_1
戦況は決定的だ。
影陋族の将は討てなかったが、主要な守りを叩き戦線を崩壊させた。
それでもまだ完全に崩れないのは理由がある。影陋族の戦士それぞれが想像以上の強者揃い。
中位の冒険者に匹敵するほどの戦士を揃えたことは俄かには信じられない。
しかし厳然たる事実であり、だからこそ影陋族の反攻作戦がここまでの脅威となった。
それもここまで。
影陋族を率いていただろう猛者はリュドミラを筆頭としたミルガーハ家に討たれる。
この本軍もまた、夜明けまでには崩壊するだろう。
ネードラハの被害も少なくはないが、この戦場は勝利だ。
軍を再編し追撃をする。残党を出来る限り討ち、二度と逆らうようなことのないよう力を削ぎ落す。
「この数で、これまでよく戦ってきたものだ」
上空から見ていたモッドザクスにはわかる。数の差が目に見えて。
ネードラハから溢れるように出てくる数万の味方に比べ、影陋族は少ない。暗がりでもまとまりを失わないのは、夜目が利くからだろう。
その集団を飲み込むように左右にも伸びていく軍。夜目の不利はあっても周辺の地形については圧倒的に分がある。
退路を断ち、全滅させる。
風の様子から、もうしばらくすれば嵐も収まるだろう。
モッドザクス以外の飛竜騎士は待機中だが、夜明けには追撃を任せてもいい。油断すれば返り討ちかもしれないから無理はさせないとしても。
味方が完全に包囲する為に、もっと混乱させておきたい。中衛、後衛を叩いて進路を迷わせたい。モッドザクスはその役割を果たすのに十分な力がある。
戦況を見定めながら、次の目標を探す。
先ほどからかなりの腕で矢を放つ女戦士がいるが、全体の影響からすれば小さい。モッドザクスを執拗に狙う分だけ、他への影響はないとも言えるので放置していた。
単体の強者よりは、軍としてまとまりのある部分を叩く方が効果が大きい。
モッドザクスの目はそれを見定め、的確にそこを突く。
「GoAaaa」
唸る飛竜。手綱が右に引かれる。
「どうし――っ?」
慣れ親しんだ飛竜の予期せぬ挙動に声をかけようとして、咄嗟に戟槍を上に掲げた。
――グワァン!
凄まじい重さがモッドザクスを襲う。腕が痺れるほど。
モッドザクスの腕が痺れるほどの力となれば尋常ではない。
叩き落とされる。モッドザクスの戟が受けた衝撃を、なんとか飛竜が羽ばたいて墜落は逃れた。
「な、んだと――っ!?」
下ばかり見ていたのは事実だ。上への警戒などしていなかった。
勝敗が決したとみて、警戒が疎かになっていたことは否めない。とはいえ、上から。
「きさま……?」
敵の姿を確認して、疑問が湧いた。
知らない敵か。
真っ黒な何かに覆われた何者か。
暗くて見えないだけかと思い凝視するが、まるで光を吸い込むような黒々とした色に何度か目を瞬かせる。
「……ああ、うっとうしいのう」
拭った。
敵が肩で己の頬を拭うと、そこから急に溶けるように黒ずみが流れる。雨で。
真っ黒だった塊は、表面に焼け焦げた炭が泥のように纏わりついていただけ。
「もう好きにはさせんわ」
見違えた。
しかし、間違いない。
「おどれを倒しに戻ってきてやったで」
かっ!
見覚えのある大槍を手にした女戦士を雷光が白く照らした。
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