第三幕 035話 戦死の訳合い_2



 何もわからない。

 状況がわからず、情報が掴めず。


 新大陸とは何なのだ。

 亡国コクスウェルの仲間の誰もがそう思っただろう。

 十数隻の船団で海を渡り、ようやく人心地をと思ったのに。



 冷たい冬の海を越えて辿り着いた港町マステスは壊滅していた。

 全滅していた。


 生きた人間は誰もおらず、時折瓦礫の影で魔物が腐肉を食らっているのを見る。

 その魔物を狂ったように殺す彼らは、恐怖と狂気に飲み込まれていただろう。



 ロッザロンド大陸での戦いに敗れ、逃げ延びて来たコクスウェル連合の上層部や敗残兵など。

 廃墟と化した港町で、彼らの足はそれ以上進むことを拒んだ。


 わけがわからない、もう嫌だ。

 雨風が凌げる建物と、なぜか残されていた食べ物などを集めて冬を凌ぐ。



 上位者の命令で、何人かは北にあるはずのトゴールトに向かった。向かった者は誰も戻らない。


 少しでも情報を集めようとルラバダール王国領地のレカンにも人を派遣したのだが、戻ってきた者の報告に驚く。

 レカンにルラバダール王国の精鋭が集まり、トゴールトに向けて出陣したのだと。


 何ということか。

 ロッザロンドでの敗戦も記憶に新しい。そんな中、味方の町が滅ぼされ、さらに残っているはずのトゴールトまで。


 極限状態に追い込まれていた彼らに火が灯された。



 あるだけの武器を手に、北を目指す。

 町を滅ぼし、誰一人生かさぬような所業をする敵がいるのだとしたら、もはや形振りは構っていられない。


 退路もなく、ただ狂気の炎だけが彼らを衝き動かした。




 ――憎きエトセンの野蛮人ども!


 日の暮れたトゴールトの門の上に、煌々と明りが灯されている。


 照らし出された男の顔はひどく痩せこけ、まるで骸骨のように。

 だがその声は、不思議なほど遠くまで響いた。



「我が呪いは、我が死してもきさまらエトセン騎士団を呪うであろう! エトセンに災禍あれ!」


 叫ぶと、男は自らの喉と手にした短刀で突き、篝火の後ろに落ちた。


 攻め寄せるルラバダール王国精鋭エトセン騎士団に最後の口上を述べて、その命を散らした。

 トゴールト領主ピュロケスの凄絶な最期を目にして――




「ルラバダールの蛮人どもに! 全軍突撃ぃ!」



 マステスから駆けてきたコクスウェルの兵たちが、トゴールトに攻め寄せるエトセン騎士団の横腹に突っ込む。

 狂気と激情に狩られた集団は、死をも恐れぬ魔物と変わらぬ形相で怨敵に向かい襲い掛かった。



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