第一幕 49話 壱角の母娘_2
甘えは許さない。
目的を果たすまで、私が甘えたことを言うのは許されない。
使命を果たしたら、望みを叶える。
母さんの下に行く。
それまで、弱音も甘えも許さない。
けれど私は弱い。
力を得ても、心が弱い。
本当は思っているのだ。
人間を一人残らず滅ぼすなんて、出来っこない。
知っているから。人間がどれほどしぶとく、どれほど悪しく、それらを根絶することがどれだけ難しいか。
私だけがどれほど強くなっても、きっと出来ない。
本当はそう思っている。
だからやらないとは言えない。
死ぬまでやって、そうして死ぬ。そう決めた。
気持ちが弱ることもある。
甘えたくなることもある。
私は弱いから。
一つだけ、許してもらえる。
彼女だけ、甘えさせてくれる。
ルゥナだけは別だから。
ルゥナは特別だから。
母さんが、私の為に遺してくれた。
私が独りで寂しくないように。母さんはそう思ってルゥナを生かしてくれたのだから。
だからルゥナにだけは甘えてもいい。
他の清廊族は、目的を同じとする仲間だけれど、でも違う。
ルゥナはすごい。
私が無理だと思っている人間を滅ぼす使命を、出来ると言う。
やると言う。
私の我侭を聞いても、私の勝手な行いにも怒らない。
ルゥナはすごい。
私は弱い。
卑怯で、弱虫で、ひどく歪んでいる。
過去の記憶が私を歪めたかもしれないし、もともとの性分なのかもしれない。
仲間が増えることを、悦んでいる。
皆が私の周りで、暖かい言葉をくれたり、私を慕ってくれる状況に歪んだ悦びを感じている。
持て囃され、崇められる。
過去になかったそれらのもたらす感情は、愉悦だ。
悦楽に溺れた。
ルゥナはそんな私に拗ねた目を向けるけれど、不満は言わない。
もっと増やしてもいいと、もっと増やそうと言う。
そう言う時のルゥナの目は寂しそうで、言った後に唇を噛んで言葉を止めていた。
そんなルゥナの姿にも悦びを感じてしまう私は、どうかしている。
ああ、そうか。
どうかしているのは、とうの昔からだった。
ルゥナと共に、人間を全て滅ぼしたら、一緒に母さんのところに行こう。
世界のどこにも母さんはいない。
どこにも幸せなどないのだから。あの黒い粘液に包まれた日々以外には。
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