第一幕 37話 失われたもの_4
激しかった。
色々と思う所はあったのだろうが、アヴィの様子がいつもと違い、貪るようにルゥナの肌に唇を押し当てていた。
少し気が済んだのか、疲れもあったのか唐突に眠ってしまったが。
「う……ん、ぅ」
「……大丈夫ですよ」
まだ涙の残る
ルゥナの頬に残っていた傷痕は、ルゥナ自身も忘れかけていたが、アヴィが癒してくれた。
何度も謝りながら。
――ごめんね、ごめんなさい。ごめん、ごめんね。
何を、とは言わなかったが、ルゥナを傷つけたことに対しての謝罪だったのだろう。
ふと腕を見ると、赤く腫れている。
転々と、あちこち。
「……」
見えないけれど、首周りにもあるのかもしれない。
アヴィが啄んだ跡が。
(これは……皆には隠したいですが)
恥ずかしい。
そう思う反面で、全く逆のことも思う。
見せつけたい。
自分で思っているよりもルゥナは性格が悪いのかもしれない。
「もしかして……嫉妬、させてしまいましたか?」
「……」
ぴくっと、アヴィの瞼が震えた。
「……」
息を殺して身動きを止める。
まさかそれで誤魔化せると思われているのなら、本当に何というか。
(本当に、可愛いんですから)
謝らなければならないのはルゥナの方だった。
アヴィを危険に晒してしまった。その上で、初めて会った子にキスをして。
必要な措置だったと思う。
彼女――トワは、アヴィに初めて会った時のルゥナと同じく、生きる道を見失っていたから。
別に愛情や何かでそうしたわけではない。
「……すみません、私の言葉が足りませんでした」
「……」
「あの子は……トワのことは、違いますから。助ける為にああしただけです」
みゅっと、アヴィの唇がすぼまる。
聞こえている。寝ているフリをしているだけで。
「私は……私には、貴女だけですから。貴女と、母さんだけですから」
「……ん」
小さな吐息が返された。
「母さんと貴女の為に生きて、そうして死にます。そう誓いました」
「……ルゥナ」
薄目を開けて、まだ少し拗ねるように眉を寄せたまま。
「キス、してもいい?」
甘い問いかけを。
さっきの質問は、ルゥナがトワに心惹かれたと思っての遠慮だったのかと理解する。
確かに綺麗な子だとは思う。出会っていきなり唇を奪うとかそういう行動に出たルゥナを訝しむのも道理だ。
「アヴィ」
力を失って不安な彼女に、ルゥナが誓いを忘れたのかとさらに心配をかけてしまった。
反省して質問を返す。
「キスしても、いいですか?」
「っ、んんぅ!」
返事は聞かなかった。
ダメだと言われても、我慢できるとは思わなかったので。
「う……むぅ……あとで、おしおき」
「ええ、そうですね」
今は眠ろう。
明日からの日々も決して楽ではないのだから。
※ ※ ※
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