第一幕 13話 戦いの後で_1


 ナイフが突き刺さったセサーカの服の袖を切り裂き、その布で肩の近くをぎゅうっと縛る。

 かなり深く刺さっていたので止血が必要だった。


 幸い毒などは塗られていない。

 そもそも普段から毒を仕込んだ刃物など持っていたら、所持している方が危険だ。

 逃げる時間稼ぎの為に咄嗟に投げたのだから、いちいち毒など塗っている暇などなかっただろう。



「つ、う……」


 セサーカのまなじりから涙が零れた。


「……」


 なんと声を掛けようか、変に優しくするのも甘いと思ったし、そう思うと突き放すような言い方になってしまいそうで。



 ルゥナが黙っている間に、片足を引き千切られた冒険者を引き摺ってきたアヴィと、残りの兵士を片付けたミアデが駆け付けてきた。


「だ、大丈夫? セサーカ」

「うん……ったぁ、うん……」


 痛みで顔が歪む。

 体に刃物が刺されば誰だって痛い。痛覚のせいで涙が出てしまうのは仕方がない。

 心配するミアデに強がってみせようとするセサーカに、とりあえずルゥナは離れた。




「お、お前ら……」

「が、ふっ……」


 片足を千切られた痛みで痙攣している冒険者と、凍り付いた睾丸を潰されて蹲っているもう一人。

 どちらもまだ息がある。


「すみません、アヴィ。結局手を……」

「ルゥナ」


 呻く冒険者のことなどどうでもいい。

 アヴィの力を借りないようなことを言っておいて、結局足りなかった。自分の力が。



「……あとで、おしおき」

「は……い?」


 思わぬ言葉に、何を言われたのか意味がわからない。

 、と言われたのか。


(それは……うまくできなかった、から?)


 だとすれば不思議な話ではないが、アヴィにそんなことを言われるとは思わなかった。


 もちろん、彼女がそうするというのであれば、ルゥナに異論はない。

 むしろ自分の不手際だったと反省しているところなので、何か罰してもらった方が気が楽だ。



「これ、どうする?」


 話は後だとでも言うように、アヴィがそれらを一瞥して言う。


「落とし穴の中にも……」


 まだ息のある二人の冒険者の処理と、最初に落とし穴に落とした二人もいるはずだ。


「あ、落とし穴にいた人間ならあたしが」


 そちらはミアデが処理していたらしい。

 深い落とし穴だが、後で処理する為に近くの屋根にロープを準備していたが。



「片方は足が折れてたのと、もう一人は腹押さえて唸ってたから、やっちゃったけど……」


 それをしていたから、セサーカよりも戻るのが遅くなっていたのだろう。


「ええ、それで構いません。ミアデ」


 まずかったかと不安げに声が小さくなっていったミアデに、肯定の言葉を掛ける。


「となると、この二人は……」


 止めは、セサーカがいいだろうか。殺せばその力を得られる。

 力のある冒険者だ。わずかに得られる無色のエネルギーも、元が強い方が当然に多い。


「こんな、影陋族なんぞ、に……」


 この期に及んで尚もそんな口が叩けるのは、根性があるというのか。


(性根から腐っているということでしょうか)


 清廊族に対する蔑称。

 人間が、清廊族を人間の従属種として定めた名前。

 既に死を覚悟したから毒を吐くことはやめないのか。睾丸を砕かれ、腰が立たなくなった状態で。


 

「セサ……」

「違うわ、ルゥナ」


 アヴィが落ちていたショートソードを拾って、ルゥナに渡す。

 間違っていると。


「貴女がやって」


 その刃と共に軽く口づけももらえたので、素直に頷くしか出来なかった。



  ※   ※   ※ 

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