第41話 勇者の剣_2
剣を手に、壁を走る。
状況はわからないが仲間割れをしているのだ。人間どもが。
母さんが最高のタイミングで仕掛けたのはわかった。完全に飲み込んだ人間どもごと爆炎の魔法が吹き飛ばした。
(母さん)
無事だ。
相当な威力の魔法で、ひどいダメージを負っているかもしれない。
いや、間違いなく大きな打撃を受けたはず。母さんが火に弱いことは知っている。
けれど母さんが負けたことはない。どんな相手にでも。
アヴィがもうダメだと思った時でも、必ず母さんは生きて、生き残ってきた。
いつも決して恰好がいいわけではないけれど、這いずってでも生きてきたのだ。一緒に。
だから今回も大丈夫。母さんはきっと大丈夫。
そんな思いが通じたわけでもないだろうが、アヴィの目の端にちらりと映るものがあった。
(首輪を)
奴隷だった清廊族の少女から呪いの首輪がそろりと外れるのが見えた。粘液の中で。
アヴィが言葉にしなかった想いを酌んで助けてくれたのだ。アヴィと同じような境遇の少女を。
(母さん、良かった)
無事だと確認すると同時に、母さんの優しさも確認する。
そうだとすれば、次にアヴィがするべきことは決まっている。
(あいつらを!)
人間どもを殺す。
母さんに飲み込まれ、そこに爆炎の魔法を受けた連中。それらがどうなったのかまではわからない。
呻き声が聞こえるところから、決して無事ではないのだろう。
今の脅威は、無傷の魔法使いの女と、異常なほどの強さを見せるあの剣士。
仲間割れするのならそれはもちろん歓迎だが、どちらも残すわけにはいかない。
幸い、清廊族の奴隷は解放された。やつらの目を奪った。
部屋は暗く、アヴィの素足の走りは音も静かだ。
焼き殺されそうになった剣士は、耳から血を流しながら逆上して魔法使いに斬りかかっている。
魔法使いは、その剣士に止めを刺そうと次の魔法の準備をしている。
(このタイミングなら!)
前回は殺されかけた。
あの剣士の動きについていけなかった。今でもその戦闘能力に敵うなどと思ってはいない。
だが、このタイミングなら届く。
アヴィよりも圧倒的に強い剣士の命にも届く。きっと。
(この一つだけなら)
全部をやろうとするのではない。
一番危険なものを排除して、次はそれからだ。
黒いマフラーで口元を隠しながら、熱さで焼ける広間の地面を蹴って走った。
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