第39話 人の魔手_3



 ずっと流された場合にどうなるのか。


 ゲイルは平気でもアヴィはそうではない。冷たい水の中を泳がせるわけにはいかないので、ゲルの中に包み込んでいたが、呼吸は必要だ。


 流れに翻弄されながら、途中何度か壁に掴まっては空気を取り込もうとしたが、水面がそのまま洞窟の天井だったりしてうまくいかない。


 何とかへばりついて岸に上がって、咳き込むアヴィの背中を擦る。



「うぇぼっ、げふっ、ふ……」


 窒息しかけていたアヴィが、涎や鼻汁を噴きながら咳き込むのを介抱して、落ち着いてきたところで顔を拭った。ゲル状の手で。

 荒く肩で呼吸をしながら、とりあえず涙目で頷く。大丈夫だと。



(このままだと、また追ってくるな)


 地下水脈から這い上がってみたが、この先どうするか。


 どの程度の距離を稼げたのか、水流の中だったのでわからないが、どうしたって洞窟内には変わりがない。

 アヴィの呼吸を気にしながらだったから、そこまで長い距離ではないだろう。



(この地下水脈は……)


 このまま流れても、地底湖のような場所に流れ着くかもしれない。そこが天井まで満水だったとしたら、アヴィの命がない。

 危険すぎる。



(ダメだな。とりあえずここは?)


 周囲の様子を探る。と、記憶にある場所だった。


「アリの……」


 巣穴の入り口に近い。


 アリの巣穴は、入り口から登っていくような構造になっていた。

 登って、あちこちに部屋があって、奥の方で下がりながら女王が暮らす大広間に、と。


 もしかすると水が増水した時に流れ込まないような構造だったのか。



(……近付いてくる)


 洞窟を震わせる振動と音。

 ずっと昔に、初めてグィタードラゴンの咆哮を聞いた際、洞窟の壁が震えるようだと感じたものだが。


(今度は本当に振動している)


 先ほどと同様に、邪魔な壁を切り開いて進んでいるのだろう。

 無茶苦茶だ。


 洞窟が崩落するなど考えたりしないのだろうか。

 そうした心配以上に、こちらを追ってくる理由があるというのか。わからないけれど。


 なんにしろ選択の余地はなかった。



   ※   ※   ※ 

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