第30話 遭遇_1
夜明け近くまで外でアヴィと話をした。
もちろんゲイルが聞き手、アヴィが話し手。
アヴィは、物心つくかどうかという頃に集落ごと人間の手に落ちて、それからずっと奴隷だったのだという。
それにしては不思議と知識があるようにも思う。夜空を見ながら、地動説だと知っていたような話しぶりだったので。
清廊族では一般的なのか、そもそもこの世界では常識なのか。
他にも、布を作っていた時の様子がリリアンのようだったとか。リリアンなんて言葉がこの世界にもあるのだと妙な関心を抱く。
夜空の下で、いつもより少しお喋りなアヴィと過ごしているうちに、それまで悩んでいたことなどすっかりどうでもよくなってしまっていた。
くだらないことで、どうしようもないことで何を落ち込んでいたのか。
ゲイルがどう思ったところで、アヴィは今が幸せだと言って笑う。それ以上のことは必要ない。
少しぎくしゃくしていた関係が元通りに、それ以上に強く繋がった気がした。
だから、たぶんこの為に外に出たのだということで良しとしよう。
そう思って二人で洞窟の奥に戻ろうとしていたのだが。
「? かあさ――」
喋りかけたアヴィの口を塞ぐ。
まだ入り口からそれほど遠くない場所。ゲイルの動きが遅いので、急いでみても遅々として進まない。
近かったから察知出来たとも言えるが。
(誰か来たな)
入り口付近に複数の生き物の気配がする。
モンスターなら、メラニアントのような群れで行動する生き物でなければ、同時に複数が現れるということは少ない。
人間だろう。人間の冒険者だ。
数は四人……五人か。
足音の感じからして、一人は素足のようだ。音が静かですぐにわからなかった。
素足というのも妙だ。こんな場所に素足で?
(どうしようか)
もともとはアヴィの衣類を調達できたらという目的で上まで来たのだが、その辺は今はどうでもいい。
また神洙草とやらを採取して帰るだけなら、別に構わないかと思っていたのだが。
――モンスターの気配がないわね。
女の声が響いた。
洞窟内のモンスターの多くはゲイルたちが狩ってしまったので、生息数が少なくなっている。
メラニアントにいたってはほぼ絶滅だ。まだどこかに生き残りがいるかもしれないが。
(まずいかな)
安全だと思えば入ってくるかもしれない。
ゲイルの移動速度では追い付かれてしまうだろう。人間の入れないような隙間に潜り込んでしまえばやり過ごせるが、アヴィがいる。
(アヴィだけ先に逃がして、どこかで奇襲を……)
洞窟内では敵なしのゲイルだとしても、別に戦闘能力が非常に高いというわけではない。
あくまで自分の特性を活かすことで他の生物より有利に立ち回っているだけ。
人間であれば、そういうゲイルの特性に対応する術を持っているかもしれない。
状況は常に最悪を想定しよう。ゲル状のモンスターの討伐を得意としていて、魔法や神洙草などの道具も持っていると。
その条件で五人の人間を相手に勝てるかと言われたら難しいと思える。
ゲイルの様子と、微かに人の声が聞こえたことでアヴィにも事情がわかったらしい。
表情が硬くなる。敵だ、と。
(敵、なんだよな)
清廊族にとって人間は敵という認識でいいのだろう。
普通ならこのゲルの魔物も敵だとは思うが、関係性から言えば人間は天敵と言ってもいい。
アヴィの敵ならゲイルにとっても敵だ。
難敵かもしれないが、可能なら倒してしまおうか。
そうすれば布も手に入り、アヴィの服を何とかしてやれるかもしれない。
(とはいえ、危険は出来るだけ避けておきたいからな)
過去にも何度も甘い目算で痛い目に遭ってきた。楽観はしない。
まとめて相手にしないで済むようにしたいところだが、何しろ今は洞窟の上層部。
可能なら下層の方で戦う方がやりやすいのだが、ゲイルの移動速度を考えれば無理がある。
とにかく出来るだけ下に行くことにした。
アヴィを下ろして、先行するように促す。
ゲイルが追い付かれて戦闘になったとして、アヴィがもっと奥から隙をついて援護することも可能かもしれない。
暗がりでも見通しが利くし、素足で足音もほとんど立てない。
アヴィはゲイルの指示を理解して、洞窟の下り坂を速足で降りて行った。
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