第434話 人工知能に出来なかったこと

 今回は久しぶりに将棋の話から始まる人工知能の話。

 藤井聡太さんが史上最年少で名人になりましたが、それよりも少し前、叡王戦第四局の最後の場面が僕にはすごく強く印象に残った。

 この対局は二回の千日手があったので、だいぶ時間が限られた中での一局だったはずですが、最後、藤井さんが竜を切ってからの詰みに気づいて、それだけでも凄いのですが、これが人工知能がすぐには発見できなかった詰み筋、というところがユニークだった。

 たぶん、人工知能も考える時間があれば詰みの筋に気づいたと思う。でも藤井聡太さんの方が早く気づいた。それは何故だろう。

 前に羽生善治さんの新書か何かで読みましたが、プロ棋士といえども、局面における有力手の全てを突き詰めることは出来ないらしい。それは時間の関係もあるだろうし、思考の限界でもあると思われる。そこで、各棋士がそれぞれの感性で「これが有力では」というものに的を絞ることになる。今回もそれに近いことが起こった結果、人工知能より先に人間が最適解に辿り着いたと思われる。

 将棋において「カッコいい手」というのがたまに出現する。よくあるのが大駒を捨てることで相手を寄せていくような手ですが、僕の感覚だと「カッコいい手」は実際に出現するよりも、解説などの場で「こんな手で勝てればカッコいいですけど」みたいな言葉を添えられて目にすることが多い。もちろん、その手はあまり現実的ではない、指し過ぎ、という感じになる。

 今回の竜を切っていく手は、紛れもなく「カッコいい手」だった。本来的には危険しかないですが、藤井聡太という棋士は限られた時間でこれを読み解けたあたりは、ちょっと普通ではない感性があるように思える。限られた時間で、危険かもしれない手、うまくいかないと困ったことになる手、その手順を深く読んでいくわけですから。人工知能も、その危険性を加味したのか、「カッコいい手」を読むのを後回しにしたわけで、この辺りに人工知能にも感性のようなものがあるらしい。正確には優先順位でしょうけど、さて、人工知能が優先順位をつけるのと、人間の棋士が優先順位をつけるのと、何が違うのでしょう?

 それにしても、人工知能は人間を凌駕したように見えて、局所的にはまだ人間が勝ると分かったのは、僕を少し安堵させてくれました。僕が信奉しているものの一つに「閃き」としか呼べないものがあって、これはおそらく人間にはあるけれど、人工知能には出現しない、そう信じたい。超高速の計算よりも、閃きの方が重要だと思いたいです。

 閃きとは無から有を生み出すように見えるけど、実際には膨大な計算、思考をショートカットするようなものではないか、と想像してます。しかし、いつかは計算速度に敗北するのかなぁ。



2023/6/3

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