第428話 勝負の結果の裏表
今回は、ものすごく怖くなった話。
将棋の名人戦七番勝負が進んでいて、これを書いた時点では、挑戦者の藤井聡太六冠が渡辺明名人に三勝一敗としています。
あまり真剣にはチェックしてないですが、藤井聡太さんのファンがかなりいるらしく、過熱しているのがテレビなどで見てとれるけど、「勝ってほしい」ならともかく「勝つと信じている」と口にする妙齢の女性を見てしまうと、なんというか、残酷、醜悪なように見えて、肝が冷える。
藤井聡太さんを応援するのはいいのですが、相手の渡辺明さんのことは考えないのだろうか。「渡辺明に負けて欲しい」と口にする人はいない、もしくはテレビに映らないけど、「藤井聡太が勝つと信じている」はもはや「渡辺明に負けて欲しい」に限りなく近い。
僕はここのところ、大相撲を見るのが難しくなってきた。勝って欲しい、という単純な感情が自分の中に見えた時、相手の負けを望むのがどうにも、心苦しい。
これは例えば、結成したばかりのアイドルや、デビューしたばかりの歌手を応援するのとはまるで違う。オリコンやらビルボードやらで一位とか、配信した動画の再生回数が一億回とか、それはある意味では勝利だけど、これは相対的な勝利に見える。それにそもそも、本当の、切実な勝負ではない。チャートで一位にならなくても、動画の再生数が少なくても、視聴者、受け取る人間が満足すれば、それは大成功になる。もちろん、売れなければクリエーターは活動ができないわけだけど。
ともかく僕は、勝ちを願うことが、負けを願うことと表裏一体であることに、疲れてきたし、そういう態度は良くないな、と自分に言い聞かせるようになった。この勝負の残酷さ、醜さ、あるいは非情さのようなものを、勝負している人間を見ているだけの人間が気にするのはおかしいかもしれないけど、どうしても考えてしまうな、としみじみ感じた。
あの藤井聡太さんが「勝つのを信じている」と口にした女性は、渡辺明さんの熱狂的なファンが「渡辺明さんが勝つのを信じてます」と口にするのを目の当たりにしたら、どんな顔をするだろう。どんな気持ちになるのだろう。僕にはちょっと、想像できないな。
それにしても、藤井対羽生、みたいな空気にならない渡辺対藤井というカードが、変な雰囲気を作っているような気もする。これはもう、空気なので、誰が悪いわけでもありません。難しい……。
2023/5/21
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