第424話 やはりそこを押さえるか!

 今回は感心した話。

 永野護さんの漫画「ファイブスター物語」のファンなのですが、雑誌に連載されていて、最新号がなかなかいい内容になってきた。ざっくりと、伝わらないことを前提に説明すると、「黒騎士」デコースに「過去の因縁」を晴らそうとする若い騎士のヨーンくんがついにぶつかっていきました。で、返り討ちに合いそうになっている。

 さて、問題の箇所は、デコースが剣でヨーンくんの腹を刺し貫いた後、「背骨を切る」という描写があることです。

 これはずっと、いろんな創作の中で気になっていたことで、剣で切られるのもそうですが、銃で撃たれたりしても、意外に平気そうに人間が動いたりするので、実際はどうなるんだろう? と不思議だった。もちろん、実際に試そうとか、見たいとかは思わないし、創作なりのお約束があるんだろうな、と考えてます。

 この辺りが「刃牙」の中で面白い解釈をされていて、愚地独歩が腕を手首で切り落とされた時、信じてもらえないでしょうけど、どこかの外科医が腕を繋ぐんですが、神経や血管を縫合する、という描写がある。これは作者の中のファンタジーだと思われる。神経を縫合するなんて、できるとは思えない。ちなみに愚地独歩の腕は比較的早めに回復して、バチバチ戦います。一方で、「刃牙道」の中で、宮本武蔵と烈海王が戦った時は、武蔵の刀で腹を掻っ捌かれた烈海王が、傷のせいで動けない自分に、切られてももっと戦えると思っていた、と思考するシーンもある。こちらの方はかなり現実的だと思われる。

 ちなみに「ファイブスター物語」の中で、やはりデコースが切った相手でしたが、脇腹のあたりを切り裂かれた後、仲間から「動くな。内臓が飛び出る」と指摘されるシーンがある。これもかなり現実味がある。

 僕自身がチャンバラを書くときは、この辺りはかなり無視している。脳内麻薬が出ているとしても、筋を切られると動けなくなるだろうけど、これを突き詰めてしまうと、勝負の展開が限られる。先に一撃を当てた方が圧倒的に有利というか、ほぼ確実に勝つと思われる。もちろん、現代の日常では想像もできないけど、実戦的な剣術には二の矢というか、何らかの逆転を企図した発想があるかもしれない。まぁ、そんなことを考えるくらいなら、一撃で相手を倒す理屈を突き詰めるべきだけど。

 ともかく、こうした「創作の中でのお約束」と、「現実味のある描写」の配分は難しいし、そこを永野護さんは踏み込んできたな、と感じた。

 余談ですが、「ファイブスター物語」の世界は科学がかなり進んでいるので、然るべき医者が診れば、背骨が切られてても回復しそうです。さらに余談ですが、神様が現実世界にいたりするので、肉体的に死んだ神様本人が蘇った例もあれば、ほとんど死んだ人を神様が蘇らせた例もあります。なんというか、そんな設定にリアルさを混ぜるのも、難しい塩梅ではある。



2023/5/11

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