第423話 何故、振り飛車を指さないのか

 今回は久しぶりに将棋の話。

 これを書いているところでは、藤井聡太叡王に菅井竜也八段が挑戦するシリーズが第三局が終わって、二対一で藤井叡王が防衛に王手です。

 さて、菅井竜也という棋士はとにかく振り飛車が強い。このシリーズでも振り飛車を採用して、かなりいい内容になっている。

 少し前、NHKで羽生善治にスポットを当てた特番があって、これが藤井対羽生のタイトル戦を取材してましたが、その中で「藤井聡太は振り飛車を指さない」という指摘を、師匠だったかがしていて、その理由が、AIが振り飛車を採用しないから、らしい。

「先手必勝」という言葉がありますが、アマチュアでは振り飛車は人気だと思われる。僕自身が適当に指すとしても、飛車を振りたい。簡単に説明すると、角を動かすより飛車を動かす方が楽だからです。玉を囲うときにはどちらかを動かさなくてはいけなくて、飛車を振る方がシンプルです。ただ、飛車を振るということは、損とまでは言えなくても、一手、余計に指していることにはなる。その辺りにAIが好まない理由があるのでは、とは思える。何せ、初手で38金とかいう謎の手を指した人工知能があるので、やはり振り飛車はAIには好ましくないと思わざるを得ない。

 ただ、人間同士の将棋は、どこまで行っても人間が指すので完璧とはいかない。一手でも間違ってしまえば収拾がつかなくなることもあるだろうし、間違っていなくても収拾がつかなくなることもありそう。結局、現代の将棋はまとめきれるか、が重要なのかも。藤井聡太という棋士は、まとめるのが上手い、となるのかな。強力な終盤力でまとめられる。振り飛車を選択しないのも、一手の差などではなく、自分の土俵として居飛車を知り尽くしている、研究し尽くしている、という強い決意というか、覚悟があるのかも。

 それにしても、ここで菅井竜也が逆転してタイトルを取るとなると、世間が騒ぎそうではある。藤井聡太は振り飛車に弱い、とか。これは菅井竜也への最大の賛辞になるんだろうけど、藤井聡太という棋士への評価としては、正確ではなさそう。その辺りは、藤井聡太という棋士が長い時間をかけて証明するのでは。勝ち星で示すだろうけど、もしかしたら振り飛車を指して証明するかも。それがあり得ない、とは言えないんじゃないかな。藤井聡太は人工知能ではなく人間なんですから。

 それにしても、この青年はどこまで突き進むんだろう。どんどん人間じゃなくなっていくようで、不安になる。いや、「竜王位より砂が重い」とか口にするから、見えないところではちゃんと人間なんだろうけど。


2023/5/6

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