第347話 疑似恋愛の崩壊

 今回は、前々回と似た話。

 懐かしい話ですが、ずっと昔、「豊崎愛生のおかえりらじお」でメールが読まれた時、豊崎愛生さんと結婚したい、と反射的に考えたことがあった。妄想とは違うんだけど、なんというか、発作的な感覚だった。

 さて、アイドルを応援することは、どこかに恋愛じみたものがあるけど、十中八九、それは疑似恋愛です。僕が豊崎愛生さんに瞬間的に感じたものがなんらかの形で積み重なると、近い形になりそう。

 これはどこかにも書きましたが、僕がラジオを聞いてメールしていると、一部の番組で、パーソナリティを育てているような錯覚を感じることがある。これも確実に錯覚で、うーん、表現が難しいですけど、娘を見るような形になる。あるいは息子。反対に、パーソナリティが兄や姉のような感覚になることもある。

 そんな具合で、錯覚が結構、身近にあるのですが、僕が極端な疑似恋愛に陥らなかったのは、おそらくですが、あまりにも多くに手を出しすぎたからではないか、と思っている。前に書いたように、堀江由衣さんを推しながら田村ゆかりさんを推していた時期があり、他にも様々な人のラジオ番組にメールしていた。こうなると、一人を選べなくなり、必然的に恋愛から遠ざかっていく。アイドルのラジオ番組を聞いていると、たまにリスナーが「自分は○○さん推し」という表明をして笑いを取ったりします。これを解釈すると、おそらくアイドルファンは一人を選ぶ傾向にあって、箱推しは少数派なのでは。というか、箱推しの人は過激化しないから、見えないかも。感情が先鋭化しない人こそが箱推しのような気がする。いや、もしかしたら過激化、先鋭化していて、どこかでは爆発してるのかな。

 ともかく、僕の心の中では、田村ゆかりさんと堀江由衣さんを二人とも囲いたい、というような異常な心理が発生しなかったので、疑似恋愛は初期段階で崩壊したわけです。アイドルを推す人は、あるいはアイドルに自分だけを見て欲しいという願望から、自分も一人しか追わないぞ、と固く誓っているのだろうか、と想像すると、実に律儀で、実に誠実だ。

 今回の問題の一件はおかしな方向に話が進んだように僕には見えるけど、アイドルの誰かを単推ししている人は、自分の人生をどんな風に考えているんだろう。アイドルが卒業するまでは自分は決して恋愛しないぞ、それは裏切りだから、という趣旨の発想だろうか。ここまで来ると、アイドルを推すことは人生が懸かっているので、アイドルの裏切りに激怒するのが連想できなくはない。

 まぁ、最大の問題は、何事につけ、誰かが鋼の精神で自分を律したとしても、周りが裏切ることもままあるので、裏切られたからと言って激しく暴発するのでは、とんでもないことになる。世の中の人がみんな誠実ならいいのにな、とは思いますが、はてさて……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る