第306話 SFが直面しているリアルな「テーマ」
今回はひしひしと感じているSFのテーマについて。
僕がSFに求めている一つに「時代性」みたいなものがあって、それは僕の中では常に移ろうものであるらしい。それはきっと僕のSFの最初の衝撃が伊藤計劃さんだからで、「虐殺器官」は9.11以降の現実の世界が強い影響を与えているという事実(たぶん)が、心に刻まれているからだと思う。
これはすごく難しいところだけど、おそらく3.11の後にもそういう「創作の方向性」が揺れる事態があったはずで、ただ、ものすごく強い作品は僕の手元には辿り着かなかった。
さて、2022年において、SF的に最も重大にして重要なテーマは「感染症」だった。未知の感染症には、「特効薬」や「ワクチン」、そこからの「薬害」、「差別」、「国家間の不均衡」、さらには「人類滅亡」、「宇宙開発」といろんなテーマに波及する力がある。これはおそらく9.11後の世界の激変、冷戦以後の巨大な変化に次ぐ大きさだったと思う。だったというか、現在進行形の変化です。
そのはずが、2022年にはさらに巨大な変化が起こった。それが「プーチンの戦争」です。これが僕には、扱い難い、巨大なテーマになっています。この、一つの大国が「力による現状変更」を行った結果が、世界的な「エネルギー危機」、「食糧危機」、さらには「思想」までも揺るがす、想像を絶する影響を、想像の上、創作の上ではなく、実際に起こしている。
SFの時代性という点から見ると、この現在をどう描くのか、描けるのかは、作家にとっては題材に困らない展開だろうけど、もはや安住の地がないような気もする。3.11の時、例えば日本の半分が人の住めない土地になる「空想」は出来た。でも、2022年にする「空想」は、ともすると「空虚」になる気がする。誰も想像しなかった困難、苦難が、異国ではなく、自国に及ぶ事は、もしかしたら「創作」から何かを奪うかもしれないな、と僕は思っている。現実は小説より奇なり、というか。あまり最近は聞かなくなりましたが、「現実を見ろ」という言葉が、また口にされるかもしれない。
僕が個人的にSFを書く上で難しいと思うことは、「思想」の部分です。根っこにあった、「正しい思想」と「不完全に見える思想」みたいな区別の基準が幻想ではないか、と思い始めた。民主主義が絶対正しいと教えられてきたし、権威主義がどこか不自然にも思えるけど、世界の流れが主義というものに配慮するかはよく分からない。戦争はいけないと教わってきたけど、例えば自分の国が侵略されたら、どうしたら良いだろう? どこかへ逃げて、最後にはどこに辿り着くのだろう?
ちなみに、今、日本で話題に上がっている宗教も、創作のテーマとしては使えそうですが、これはどちらかといえば文学のテーマのような気もしますねぇ。
とりあえず、みんな、どんどん創作で現実を解体してくれ!
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