第243話 「悪意」と「空想」で出来た混合燃料
今回は僕が直面している話を、市井の人間の一意見と、実際に直面している事態について。
僕が子どもの頃、家族のなかで「中国産」、「メイド・イン・チャイナ」という表現が頻繁に口に上がる時期があった。これが「中国産だからすぐ壊れる」、「中国産だから質が悪い」というような趣旨だった。
僕の親の世代では、おそらくベトナム戦争に触れたかどうかわからないし、朝鮮戦争の時は生まれてないか、まだ子どもだったはず。浅間山荘などの日本赤軍の事件は見てたのでは。
僕の中で育まれた「中国像」は、ほとんどこの幼少期の刷り込みによる。だから、まったくの「空想」だった。僕が実際に身近に中国人だろう人を見るのは、大学に入ってからで、それでも「日本語が完全じゃないな」という程度の認識だった。
似た感じでは、「フィリピン人」、「インドネシア人」や「ブラジル人」という立場の人が近所にいたり、学校にいて、しかしこちらは「リアル」だった。印象深いのは、フィリピン人の女性がスーパーでレジ打ちをしていて、僕が母について行ってその人がレジ打ちする場面です。母とその方が世間話を話し始めるわけだけど、フィリピン人の女性が次第に日本語が上手くなって、違和感が消えていった。これが「現実」であって、そこには「フィリピン人」という立場におけるあらゆる「空想」の入り込む余地がなかった。
さて、僕は祖母と同居しているが、この人は「空想」を非常に強く、まるで見てきたように言う。誰それが、ここでこんなことをして、こんなことがあった。そう言うことを明言した後に「そう言う話だよ」で結ぶ。つまり一番最後に「これまでの話は推測が含まれてます」と主張するけど、この構造はどこからどこまでが「事実」で、どこからどこまでが「空想」なのか、まったく焦点が合わない。祖母は断定口調で語り、最後に根拠があやふやと本当にかすかに明かすから。
まさについ最近、非常に困ったのは、客が来た時、電話帳の話をしていて「アルバイトが適当に配って回って、配った分だけ金をもらえるから適当な仕事をしている」と主張し始めた。そんな適当な仕事が現代社会で許されるわけもないのに、そんな常識は頭にないし、それよりも「アルバイト」という存在に対して「雑な仕事をする」、「まともに仕事をしない」という「空想」がまるで「事実」のように語られている。
僕は比較的、人間は善意を持っていると思っているし、思っていたい。誰かを傷つけたり、悪く言わなくて、仮にそう思っても最後まで、耐えられる限り、他人の名誉を守るべきでは。
しかし祖母の言動にはどうやら「善意」はない。まるでタチの悪いSNSみたいに、徹底的に「叩く」ことを躊躇わない。ある種の異常なのは、匿名ではなく、はっきりと身分も居場所も明らかにして、他人が傷つくこと、他人を卑下すること、否定することに躊躇いがない。
攻撃するために「空想」し、その「空想」をまるで「現実」のように語り、こうして「攻撃」はその輪郭を手に入れる。強い口調、断定が、本当は完全なる虚構の銃弾、空砲なんだけど、何も知らない人はその炸裂に驚き、「現実」と認識してしまう。
フェイクニュースっていうものがここ数年で注目されるけど、ど田舎の実際の社会では、フェイクニュースは24時間365日休みなく生産されてます。
僕はこの「悪意」と「空想」の組み合わせが、ただの一人の老人の悪癖ではなく、もっと巨大な、変な手法、理論みたいになりそうで、恐怖を感じている。
僕は祖母によって騙られたことがある。
あなたも隣の誰かに、騙られているかもしれません。
僕たちは実際に目で見て、耳で聞き、多くの情報を集め、真実を探さなくてはいけない。
嘘の爆弾が炸裂し、地面は掘り返され、煙で周囲は見えない中で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます