第195話 「どうして?」という素朴な疑問

 今回は異世界ファンタジーのユニークな点について。

 よく「迷宮」とか「ダンジョン」というものがありますけど、僕はこれを「洞窟」と同義と捉えてました。しかし少し考えてみると「ロードス島伝説」の最も深き迷宮とかは、古代文明の遺跡で、つまり人工物なんですよね。

 これが異世界ファンタジーの面白いところで、文明の技術水準を如何様にも設定できる。そしてそれを「お約束」として、不可侵の設定とすることができる。それは簡単な説明の範囲でも作用して、この遺跡はドワーフが作りました、と言われれば、そんなものか、というような納得を生んだりもする。

 僕が読んだ小説で一番凄いのは北方謙三さんの「水滸伝」で、これが梁山泊という反乱集団が、とにかく細部までプロフェッショナルがいるという設定。銭を稼ぐ人も、銭を計算する人も、医者も、薬剤師も、鍛冶屋も、文書偽造屋も、印鑑偽造屋も、馬の医者も、船を作る人も、潜水に長けた人も、石を積む人も、志を説く人も、とにかく多岐にわたって役割がある。騎馬隊ですら、馬がいないようなところからスタートする。この作品世界だと、いきなり銭が湧いてくることはないし、いきなり船が建造されたりもしないし、砦が都合よく出来上がったりもしない。そして面白いのは、鍛冶屋が鍼治療のための針を必死に試行錯誤したりして、ちゃんとそれぞれに見せ場がある。

 これを読んじゃうと、異世界ファンタジーを書くときに、すごい高いハードルが生じるので、書き手にとって読むことが良いのか悪いのかは微妙なんですが、僕は読むことをお勧めしたいところです。とにかく勉強になる。

 ご都合主義という言葉はもう擦り倒されている感がありますけど、これが突き詰められちゃうと、もう訳がわからなくなるので、おそらく無視するべきでしょう。例えば魔法があるとして、その最初は誰が作ったのか、ということを考えないではいられない、となった時、仮に「天才が作った」とすれば、それは都合がいい、かもしれない。仮に「突然変異による突発的で偶発的に存在による天性のもの」としても、やっぱり都合がいい、かもしれない。

 でもまさか、物語の中で一から説明して、そこに何の都合の良さもない、なんて話はあり得ないわけで、どんな物語においても「それはどうして存在するの?」という素朴な疑問には、やんわりとそれらしく答えるしかない、ということかなと思います。

 ちなみに異世界ファンタジー世界を構築する時、僕が一番、難儀するのは、やっぱり銭ですね。誰がどういう形で保証するのか、と考え始めると訳がわからなくなる。もし狭い範囲で複数の国がそれぞれに銭を作ってたら、手に負えない。まぁ、その時は古代ローマをイメージすれば良いのかもしれない、という言い訳で誤魔化すしかないのでした。謎な言い訳ですが、もしよろしければ塩野七生さんの「ローマ人の物語」をお手に取ってください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る