第184話 一枚と三枚が等価の世界

 今回は服から始まる想像の話。

 僕がジョギングで着用するパーカーは、もはや趣味でもなんでもない、近所の量販店で何故が300円で買ったパーカーです。

 そして次に控えているパーカーは、スポーツ用品店のセールで買った、比較的まともな2000円のパーカー。

 さらに言うと、今、欲しいと思ってるパーカーは乃木坂46のアパレルで、おおよそ6000円です。

 これはもう何が何やらわからなくなる数字ですが、まぁ、文庫本を買う時も、1000円の文庫を古本で500円で買ったり、場合によっては100円で買うので、本当にはわかっているのかもしれない。

 僕がど田舎の街を謎のパーカーを着て走っても、乃木坂46のパーカーを着て走っても、何も変化が起こらないのですが、都会だとまた違うのかな。しかし別の要素、ジョギングシューズになると、周りへのアピールはできるのかも。俺は走るのが好きだぞ! みたいな。……いや、そもそもジョギングで何をアピールするのか、という根本的な問題があるか。

 例えばあんぱん一つは100円で買える。しかし苺大福は200円。例えばラーメン屋で味玉ひとつが仮に100円だとしても、コンビニで生卵は10個のパックが300円でお釣りが来る。

 どうやらこの世界には「物体」とはまるで違う「価値」がちゃんとあるらしい。

 だから、いつか乃木坂のパーカーも価値がなくなって、どこかの古着屋のセールコーナーに並ぶかもしれない。それが時間の経過よりも、文化の変化だとしたら、ちょっと怖くもなる。それはネット小説にも言える。二十年前は無料でちゃんとした小説を読むのは不可能だった。小説を読むには本を買うとか、雑誌とか新聞とかで読むしかなかった。これは、文化の変化で、「小説」の価値が変わったらしい。価値というか、「値段」かもしれない。

 これは誰が言ったのか、ラジオの制作現場の話でしたが、経験を積んだ構成作家が、これこれという値段で仕事を受けます、と言っているところへ、新人の作家がやってきて、僕ならもっと安く受けることができます! と言い始めて、困る、という話題があった。これが横行すると、お金を出す側は安くて使える作家を選んでしまって、結局は作家のギャラが崩壊してしまう、という話です。

 小説も無料で読むのが当たり前になれば、誰もわざわざ買わなくなる。となると、ちょっと面白いのは、無料で読めない本にこそ価値がある、となる。大昔の、誰も電子化して無料配信しない、謎の作家の作品が、本当に価値を持つ。……なんで未来がさて、来るだろうか。

 服はさすがに無料では配布されないはずだけど、うーん、食料品の無料配布があるのだから、この世のどこかでは、すでに衣類も配布されてるのかもしれないですね。

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