第138話 キャバクラ書店のささやかな裏切り
以前、書いていた「キャバクラ書店」で面白いことがあったので、そのことが今回のお話。
そもそも「キャバクラ書店」というのは、僕の生活圏にある小さな個人経営の書店のことです。ある時、ここで買い物をしたら店員の人に「○○さんに買っていただける本がなくてすみません」みたいに、名前を覚えられ、さりげなく持ち上げるようなことを言われて、満更でも無かった、ということがありました。
さて、その店でとある漫画を買ってあげよう、ということで行ってみたのですが、限定版はあっても通常版は棚にない。そこでレジで確認しようとしたのですが、前の店員さんとは違う、噂では店長らしい女性が応対してくれました。
結局、通常版はもう売れていて棚にない、となったのですが、何やら融通してくれて、通常版が奥から出てきて売ってもらえました。しかし、そこでさりげなく「今度は予約してくださいね」と言うではないですか。
その時は笑ってやり過ごしたけど、これはちょっと、商売の難しいところが出たな、と感じましたね。
小さな書店だから在庫は抱えられない。しかし客は確保したい。できる限り自分のところで買って、他の店では買って欲しくない。
そんな感じの心理なんでしょうけれど、僕としては何もその店以外に書店がないわけじゃないし、どこで買ってもいいし、むしろ人気作だから他所へ行けば予約も注文もせずに買えるわけで、やや売り手と買い手の心理がすれ違っている。
あまり詳しく知りませんが、近江商人が「三方良し」という言葉を使ったようですが、さて、僕はどうしたらいいだろう。あの店で買わなければいけないという理由はないし、あの小さい店がなくなったところで不自由はしないし、そもそも善意であの店を選んでて、予約するくらいなら他所で買おう、となってしまうと、僕が目の当たりにした「次は予約してください」というただの一言が、逆に客を一人、失うことになってしまう。
この件で難しいのは、商品に何の「限定」もないことで、書籍は実際の店舗に行かなくてもネットでも買えてしまうこともあって、あの小さな書店「にしかない」という強みがあればまた違うんでしょうけど、今回はそれが少しもない。広く考えると、現代的な商売は「そこにしかない」という要素が強くなってるのかもな、と思ったりしました。
もっと別の業種、例えばラーメン屋とかパン屋とかなら「そこにしかない」ものを売れるし、コンビニでさえ差別化がされているけど、書店とかCDショップはだいぶ厳しいんだろうなぁ。
それにしても、僕はあの書店をどうしたらいいんだろう? 頻繁には行かないので何かを予約することはないと思うのですが、かといって、ふらっと入って思わぬ発見があるような店でもなく、中規模の書店の方が便利で品揃えも良くて全てが楽なのが、正直なところ。
あぁ、しかし、無くなったら無くなったで、寂しいかなぁ。商売って、難しいなぁ、としみじみ感じました。
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