第126話 どうしてもモヤモヤする話

 今回は二つの話題と僕の個人的な経験からの暗い話になります。

 つい先日、何気なく友人とメールを交換している中で、その友人氏がある話題で「DaiGoの優生思想発言みたいに、口にすると問題があるから、その話題に関する自分の意見は言わない」とメールしてきた時に、それはおそらくなんらかの冗談だろう、と聞き流したけど、これは実はものすごい根深い問題なのでは、と思った。

 僕はDaiGoという人がどんな立場の人で、どんなことを、誰に向けて発信したかは知らないし、知りたくもないけど、口にしてはいけないことを口にした、と捉えるのは、どうなのか。この問題の根幹は「人間性」みたいなもので、言うとか言わないの問題ではないのでは。ただ、それでは「考えてもいけないのか」となると、その絶対に侵されてはいけない自由を奪うことは、100%間違っている。そうなると、誰もが考えることは自由だけど、言ってはいけない、と自制していて、口にしてない、表明していない思考があり、実はそこに闇があって、なんらかの悲惨な事態がいずれ、起きるのでは、と僕は思ってしまう。

 これは昔のことではないけど、障害者施設や老人ホームで暴力やもっと酷い事態が起こるけど、障害者の家族や高齢者の家族はみんな、「職員は善人」という前提で家族を任せるんだろうけど、先に書いたような、「内に秘めている悪意」が誰しもにあるとしたら、どうなるのか。心のうちを読むことは不可能だし、なんの保証もないとなると、安心して家族を任せることができる他人とは、どこにいるのか、となってしまう。

 社会にはこういう「無意識の信頼」というか、「無害という前提」があるんだけど、僕は友人氏のメールのことを考えると、さすがに怖くなった。もう一歩踏み込むと、「私には他人には言えない思考、思想がありますよ」という露悪的というか、よく分からない自分に向けたネガティブキャンペーンをする人は確かにいるけど、社会的な信用が失われて、損しかないし、いざと言う時、僕はこの友人氏に助けを求められるのか、友人氏の危機に助けの手を差し伸べるべきか、かなりあやふやになった。助けるとは思えけど、助けてもらえるかは分からない。他人だから、頼らないように、頼る必要がないように努力するしかない。

 少し前に電車の中で女性に切りつけた人がいて「幸せそうな女性を傷つけたかった」という意味不明な理屈を展開したようだけど、この理屈は僕には分からなくても、僕はその理屈が世の中に存在することは知ってました。もうだいぶ前だけど、忘れられないのですが、僕は妹、父親に「お前が楽しそうにしてるのが気に食わない」と面と向かって言われたことがある。どうしてそんな言葉を向けられて僕が今も生きていられているのか、絶望して大事なものを投げ出さなかったのかは、今でも不思議で、ただ、痛みは今でも感じるし、やはり絶望はまだある。傷が癒えるとか、忘れるとか、水に流すとか、そういう感じは全くない。

 この父と妹のような思考は、僕の中では「幸せな人間を傷つけたい」と限りなく近い思考で、なので、ただあのよく分からない犯罪を犯した男性が「殺人」を選んだだけで、父と妹は僕に「自殺」して欲しかったんだろうなぁ、と今でも思う。もうほとんど関係を絶ってますが、この問題は先に書いた「内に秘めた悪意」と同種のもので、やっぱり僕はどこかで、他人を信用しきる、ということがもうできないだろうな、となる。

 だからと言って、何も考えるな、とか、思考の幅や深さを制限するのは絶対に違うので、考えた上での、うーん、なんというか、判断、決定、になるのかな。考えた末に「自殺してくれ」と遠回しに言われたとなると、それはそれで救いがないけれど。

 DaiGoという人が炎上して、これからほとぼりが冷めるのを待ってまた活動するのか、社会全体で徹底的に叩き潰して追放するのか、僕にはよく分かりませんが、誰もが心の中に闇があって、大半の人はそれをおくびにも出さずに日々を生きていて、死ぬまで封じ込めている、ということなんだろうか。そして、それをうまく扱えなかった人が、言葉にして後ろ指を刺されたり、暴力に傾いて他人を傷つけるのか。

 僕はいったい、どちらだろう。他人の闇を間近に見て、ぶつけられて、それでも自分の中に全てを封じ込められるのか……。

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