第115話 オバチャン! と思わずにはいられなかった

 つい先日、書店に行って会計になった時、一つ前にお婆さんというほど歳はとってなかったけど、とにかくオバチャンが娘にしては若すぎる、おそらく孫らしい女の子と並んでいました。

 この時点でどことなく不穏な気配でしたが、二つのレジのうちの一つが空いて、そのオバチャンと孫の二人がレジへ。

店員「袋はどうなさいますか?」

オバチャン「いらない」

 つっけんどんそのものの、にべもない言葉。

 僕は隣のレジが空いたので会計をしてて、たまたま後ろをオバチャンとその孫が通り過ぎたのですが、オバチャンの腕が僕の鞄に当たり、その時にオバチャンが一言「ごめん」と言って抜けていき、なんというか、僕は心の中で「完全無欠のオバチャン!」と思った。

 店員に袋の要不要を聞かれた時も「いらない」ではなく、「いりません」とか「大丈夫です」とか、言いようがありそうなんだけど、完全に強気で一歩も譲らないその強さ。そして僕の鞄に当たった時も「すみません」とか「ごめんなさい」ではなく、「ごめん」。言い方がもう、あまりにナチュラルに横柄で、笑いそうだった。

 別に僕としては他人がどんな言動をしてもいいし、「ごめん」で腹が立ったりはしないんだけど、隣にいた孫らしい女の子はあんな様子を普通に見せられたら、居た堪れないっていうか、身の置き場に困るのでは。恥ずかしいというか。あれを恥ずかしいと思わない感覚の持ち主なら、あの女の子も三十年後くらいにあのオバチャンみたいになるのかなぁ。そう思うと結構、愉快ではある。そばにいる人、よく見てきた人の生き方ややり方、人間性がちゃんと継承される、という点で面白い。

 これはきっとさまざまなところである要素で、例えば僕は両親の影響で、タバコを吸いたいとか、酒を飲みたいとか、外食したいとか、ほとんど思わない。でも本はこれでもかと買う。本への出費を出費と思ってないところがある。そういう形で僕も何らかの感覚を継承してるんだろうなぁ、としみじみ感じました。

 それにしても、あんな硬派なガチガチにテンプレートにはまったオバチャンは久しぶりに見た。本当に最初の場面から、そんな空気がしたんだよなぁ。

 僕は別にオバチャンがどんな不作法をしても、本当に気にならないんだけど、あのオバチャンはどんな仕事をして、どんな家庭で、どんな風に過ごしているんだろう。全くのイメージですが、寡黙な旦那さんがいて、娘は働いていて、お婿さんもやはり共働きで働いていて、孫の世話を焼きながら、お婿さんの悪口とか、お婿さんの両親の悪口をあけすけに言う、みたいな感じかな。いや、そこまで行くとあまり楽しい人間じゃないな。陰湿で陰険すぎる。あの感じはもっと明るい、開かれた強さだった。悪口は言わないな。本当に細かいイメージだけど、旦那さんに「早くお風呂入って!」とか、娘に孫の教育方針を問いただしたりするかな。娘は娘であのオバチャンに似て強気で、頻繁に口論になったりして。

 いやはや、あのオバチャンは、関わり合いにはなりたくないけど、これぞオバチャン! だった。

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