第110話 昔の友人の話と、人生の話

 前にもエッセイに書いたけれど、高校生の時、クラスメイトだったM氏は、僕に大きな影響を与えたのは間違いない。例えば「天上天下」とか「王泥棒Jing」は彼の影響だし、当時、かなり話題になった「GANTZ」や、マニアックだった「天獄」なんかも話題に上がった。ちなみに僕からは「多重人格探偵サイコ」とか「ファイブスター物語」を勧めていました。

 中学生の時は何故か、「アクエリアンエイジ」というカードゲームや、アニメ化された「シスタープリンセス」で盛り上がっていたり、男しかいない集団なのに「フルーツバスケット」を回し読みしていた。アニメも「スクライド」とか「シャーマンキング」、「ヘルシング」といい具合にマニアックなところからメインカルチャーまで、幅広く押さえることになった。

 大学生の時はといえば、あまりこれといって思い出がないのが、僕があまりに孤立していたことを示しているけど、本当の意味で、「文章を書く」ということが好きな人と出会ったのは、大学でだった。高校生の時も部活動で文章を書いていたけど、大学のサークルの人たちはまるで熱意が違って、その熱はまさしく熱だった。いろんな人がいて、唸らされるほど上手い人が何人もいた。それも上手いというのも、文章が達者な上に、説明、解説が上手くて、誰かが書いたものに鋭い指摘するK氏は、ほとんど仲良くならなかったし、すでに連絡を取らないどころか、連絡先も知らないけど、正直、あの人は超一流だったと思う。もしかしたらどこかで小説を書いているかもしれないし、あるいは会社員をしているのかもしれないし、それは全くわからないけど、あの弁舌は凄かった。他にも先輩でA氏はプロの作家になったし、他にも興味深い人が大勢いたのが、大学の印象。

 何が大学生に熱意を解放させるのか、分からなくもないけど、高校生まではどうしても、勉強をするために勉強に行く、という形になると思う。中学校は高校に入るために勉強する場所で、高校は大学に入るために勉強をする場所になる。もちろん、大学も社会人になるために勉強をするはずだけど、でもどこかに就職する時に、高校入試とか大学入試みたいに、ガチガチの点数次第の試験をするとか、点数だけで合否を決めるとかがあるのかと言えば、一部の仕事以外は、面接なりなんだりで評価される部分がある。これは明確な正解がない。だから大学はどことなく、開放感があるのかもしれない。暗記することを繰り返されたり、点数勝負で未来が決まる場ではなく、人間として成長できる、人間としての自分をさらけ出せる場所が、大学なのでは、と思ったりする。

 高校の部活は、ほとんどが余暇に近いと僕は思っている。特に文化系は難しい。吹奏楽などでも、本当の一流の演奏者になりたいと部活に打ち込む人は少ないのでは。むしろ音楽なんて、部活でやるより、どこかの教師に指導してもらったり、家に帰ってひたすら練習する方が効率がいいかもしれない。僕は高校の時から家のパソコンで毎日、一時間くらいキーボードを打っていたけど、大学生になったら二時間くらいは時間ができた。もっとも、サークルに入ったら、サークルで発表する原稿を書く必要があり、今思えばサークルでの原稿なんて飛ばしてもよかったのに、必死に公募の原稿を書きながら、サークルの原稿を書いて、時間はいくらあっても足りなかった記憶がある。

 人生って若い頃は全く意識しなかったけど、大学を出てしまうと、なんやかんやと忙しくなり、自由は失われる。色々な評価が、高校までのような評価よりも広範に、厳しく向けられてくる。こうなると大学生の時は本当に自由だったな、と思わずにはいられない。忙しいし、将来は不安だった。でも、縛りは緩いし、希望を持てたから、ある側面では楽だった。どんなことだってできた、とまでは言わないけど、どんなことだってできそうな気はした。

 僕の人生はとりあえず、パッとしないし、薄暗くてジメジメしているけど、そういうささやかな光の差す時間があって、僕の進んできた曲がりくねった道にも先導してくれる人が何人もいたのは、本当に運が良かった。僕が誰かを導いたとは思えないけど、とりあえずは自分だけでも未開の地に分け入ることで、獣道みたいな筋道だけでも残せたら、とは思う。

 誰かが僕を見て「この道は危ないからやめよう」と思うだけだとしても。

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