第4話
ざざあ、ざざあと打ち寄せる波の音に目を開けたわたしは、足元に触れた冷たい何かに“ひゃっ!!”と声を上げてしまった。ご主人さまが、大丈夫かい、と手を引いてくれ再度視線を下に落とすと、くるぶしぐらいまで水があった。ネムリ、とご主人さまがわたしの名前を呼ぶ。
「ご覧。ここが、人間界と異界の狭間――朧川(おぼろがわ)だ」
滝から流れるそれのように冷たい水。花のような甘い香りが、霧や煙の中に息づいている。確かに、ここに小舟を浮かべて、揺られながら眠ったらどんなに心地よいだろう、と想像してしまう。
そんな世界の真ん中に、膝を抱えて丸まっている月光のような少女が見えた。
「もし。こんばんはお嬢さん。君がエイミーさんだね」
「!こんばんは、おじさま」
ご主人さまの呼び声に応えた少女は、店を訪れた女の子――この少女のお姉さん――と同じ、真っ白な髪の持ち主だった。ラピスラズリに似た深い星灯りを写した瞳の色は、姉の木苺色とは対照的だ。さらさらと流れる水のように、余韻の残る心地よい声。叶うならば、夜の海辺で彼女に一曲歌ってほしいな、とわたしは思った。
「私はヨルトリ。こちらはネムリ。今夜は君に、プレゼントを届けに来たんだ」
「プレゼント……わたしに?」
「そう。君のお姉さんから、これを」
ご主人さまは懐からシャボン玉を作るときに使う細棒を取り出すと、一度足元にしゃがんで棒先を水にちょんちょん、と二度浸けた。
「さあ。やさしく吹いてごらん」
ヨルトリに言われるままそれを唇に触れさせた少女は、ふっ……とバースデーケーキの蝋燭を吹き消すときのように息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます