第2話

「“ポピーのシャボン玉ゼリー”を、下さい」

「色はどうなさいますか?」

「えっと……どれも素敵で選べないので、三つとも」

恥ずかしさからかメニュー表で顔を半分隠すお客さま――少女に、わたしは注文票へのメモを終えてから“かしこまりました”と言葉を掛ける。


カウンターの向こうに注文票を持っていくと、“ポピーだね?”とご主人さまがガラス棚から花を選んでいるところだった。赤、白、黄色、一見チューリップのような色合わせだが、小振りの花が点々と並ぶ姿はロリポップみたいで、実にかわいらしい。


ご主人さまはひとつずつ花房をハサミで摘み、シガーシロップの瓶に浸ける。こぽぽん、とポピーが息をしたら瓶に細棒の先をちょんちょんと付け、シャボン玉を作る要領でぷう、と唇で吹く。その手際の良さと、魔法のような光景を目の当たりにして“わあぁ……!”とネムリの口から歓喜の声が漏れた。その間にもう、ご主人さまはお皿で泡をキャッチしてスプーンを添えていた。


「本当に、食べるだけでいいの……?」

わたしがデザートをテーブルまで運ぶや否や、お客さまは半信半疑で呟いた。きちんとスプーンを握っているあたり、恐らく“食べるのが勿体ない”と思っているのもあるんだろう。

「はい。“届けたい花を食べること”が対価ですから」

「すぐに届く?」

「もちろん。あなたが食べたその花を、夢に乗せて届けますよ。……天国の妹さんに、ね」

ご主人さまの言葉にはっとしながら、けれどすぐに視線をゼリーに落とした少女は“いただきます”とお祈りを済ませた。


「……最後の夜に“おやすみ”を言えなかったから、ちゃんと寝れてるか心配で」

涙は出ていないのに、ひどく虚ろに笑う少女が急に大人びて見えた。

それはわたしだけではないようで、ご主人さまも眉を下げてしばらく、少女を見守っていた。

そうして少女は“ごちそうさまでした”と実にゆっくりと手を合わせた。少女のスプーンは役目を終えると、たちまち光の粒となってご主人さまの手の方へと飛び去る。


「“安らかな眠りの雫”――確かに受け取りましたよ。今夜必ずお届けします」

“あなたもどうか、良い夢を”とご主人さまが甘く低い声でお辞儀をする。一日一人、お客さまがこの店で“食べた花”を夢に乗せて別に届ける。それが、この“ネムリの花言葉”の店だ。


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