第5話 延長

 俺は1つの推理を投げかけた。


「ははあ、もしかして、八賀さんのご家族あるいは親戚の方って、もしかして滋賀県でお土産物屋さんとか経営してる?」


「何で?」


「いや、俺がびわ湖バレイの写真を見て、行かなくてもいいんじゃねっとか言ってたら、それじゃ家族か親戚の商売が困るとか、そんなオチかな?」


 八賀さんは、俺の推理を訊いたあと、何かを堪えるようにぷるぷる震えて下を向いた。


 なんか、まずい。


「大峰くんの、ばか! そうじゃないのに!」


 彼女の叫びに、再び周囲が色めきたつ。

 咄嗟に「すいませんでした!」と頭を下げ、「続きを聞かせて下さい!」と懇願。


 彼女は自分でも興奮しすぎたことを恥じた様子で、胸に手をあてて呼吸を整えた。

「……ちなみに、私の親はヤマナカ電機で働いてます……」


「あ……そうなんだ。いいよね、ヤマナカ電機。俺もこの前、あそこでテレビ買ったよ」


「……」


 あ、あれ、この返しダメだった……?


「売り場は、スマホコーナーです……」


「あっ、そうなんだ。今度、新しいの見に行こうかな。そろそろ買い替え時だし」

ごまかすように「ははは」と頭を掻く。


 彼女は赤面した表情を悟られないようにコホンと咳払いした。


「ごめん、なんか話の腰を折っちゃって。続けてください」


「……では。大峰くんは、さっき商売とか、経済的な側面ばかりに注目してたでしょ?」


「うん、そう……かな」


「問題はそれだけではないの、確かに地域経済に大きな影響を与えることはそうなんだけど、このまま日本の皆がInstagramなんかで満足して旅行に行かなくなると、その穴を埋めようと外需に頼ることになるわ」


「まあ、そうだよね……。京都とか凄いみたいね」


「その結果どうなると思う?」


「……観光地がゴミゴミしちゃうとか。環境問題ってこと?」


「ううん、惜しいけど……、でもそれもいいかも。SDGsって最近流行ってるし」

 彼女はうんうん、なるほどと、ぶつくさ勝手に自分で納得した様子で明後日の方角を向いた。

 

 俺は訝しんで、彼女の顔を覗き込む。「てゆうか、違うの?」


 彼女は我に返ったように、

「そ、そう違うのよ。ようは、国内の産業が外国に依存してしまうことなのよ。それって、つまり……自分のお小遣いを、他の誰かが決めて、買いたくもないダサいTシャツを買わされることと同じなのよ!」


 なるほど。


 ……ようわからん。

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