第4話 飛躍

「行った気分でいいじゃんって発言のことよ!」


 ……ん?


 俺の頭上に?マークが浮かんだ。

 どうでもいいことだが、目の前の八賀さんも、寝ぐせなのかクセ毛なのか、髪の毛が1本縮れて伸びており、?マークのようになっていた。

 

 何がいけないんだ。


 再びさっきまで傍にいた都留岐くんを見た。

 彼も困惑した様子で俺らの成り行きを見守っている。


「でも、実際問題びわ湖バレイに行きたくても行けないんだから、仕方なくない?」


「それよ。その発想が、やがては世界を滅ぼすことになるの!」


 また出た。

 いつから、俺は世界征服を企む悪の枢軸メンバーになったんだろう。


「びわ湖バレイから、世界征服って飛躍し過ぎじゃない?」


「世界征服じゃなくて、世界を滅ぼすね」

 彼女はこほんと咳払いした。


「同じようなものじゃない?」


「いいえ、違うの。ちゃんと理由があるわ」


「えっ、ほんとに? 頼む、教えてくれ!」


 何故だか、彼女の口からやっと、理由が訊ける喜びに気分が高揚してしまい、声がうわずってしまった。

 それは、周囲の野次馬たちも同様だ。皆、一様に彼女から発する言葉を固唾を飲んで見守った。


 八賀さんは、それに気付くと恥ずかしそうに下を向いた。


「大峰くんの発想だと、このままだと日本、いえ、世界は重大なテロの危機に直面することになってしまうの」


 テロ!


 なんと、俺はテロリストだったのか!


 ……いやいや、そんなわけないだろ。彼女の続きを訊こう。


「大峰くん、今の日本がどれくらい観光産業が盛んか知ってる?」


「ごめん、なんか難しそうだね。よく分からないから教えてください」


「2018年度世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の調査報告によると約40兆だそうよ。ちなみに、世界ランキングでは堂々3位にランクインしてるの」


「そうなんだ。知らなかった。日本凄いね」


「そうよ。ちなみに前年比でいうと3.6%アップ。この数字を訊いて、なんか少ないなと思ったらダメよ。元々の規模が違うんだからね」

 彼女は先生のように人差し指を立てた。


「なるほど、それで」


「政府一丸となって観光立国を目指した結果なんだけど、これだけ急速に観光産業が増えていくってことは、そこに従事する人、地域経済に大きな影響を与えることになるのよ」


 ふんふん、なかなかに彼女は博学なのだと思った。

 

 ……でも、それがなんで世界を滅ぼすの?


 しかも、俺が?


 彼女の目がきらりと光った。


 


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