第11.5話 束の間の娯楽
自動雀卓が設置してある個室に案内された。とても素晴らしい物だ。
「本当だったらたっぷり湯に浸かって、リラックスして、美味しい物食べて、それからこれが出来ていたんだよね。さぞ幸せだろうなぁ」
「何言ってんだよ〜。生きてるだけで幸せだと思えよ! なんならかなみょんと麻雀が打てるなんてかなりの幸せモンだぞ!」
「まあ言われてみればそうだね。それじゃはじめよっか、なんかあっちは多忙そうだったし、多分半荘できるよね」
それからかなみょんが有馬に三倍満を振り込んだぐらいで、他に大した展開もなく、オーラスに突入。親はかなみょん。有馬がトップで僕と山代さんは大差無し。
「あれれ〜? かなみょん麻雀弱い感じかな? もし俺が勝ったら連絡先教えてよ」
すぐに調子に乗る所が有馬の悪い所だ。この余裕的に、すぐ和了できる配牌なのだろう。
「勝負は追い込まれれば追い込まれるほど面白くなる。いいわ、その条件飲んでやろうじゃないの。ここで私が和了し続ければいい。ただそれだけの事だけど」
それからかなみょんは東のみや南のみ、食いタンなど安い役で沢山和了し続けた。そして7本場まで来てしまった。
「ここで和了されれば八連荘。絶対阻止してやるぜ! 俺はかなみょんの連絡先を知るんだ!」
こいつ、完全に欲望を丸出しにしている。みっともない。
「もう貴方は私に負けているのよ有馬翔」
「いーや! ここで俺が絶対和了する!」
「だから、もう負けてるんだってば」
「……おい、嘘だろ? まさか」
「私ってば本当にツイているわ。ツモ。えー、天和・大四喜・字一色・四暗刻。それから八連荘ね。もう面倒臭いから全員今すぐ全ての点数棒を私に寄越しなさい」
かなみょんの手配は綺麗に東東東南南南西西西北北北發發の並びをしている。幸運なんて言葉じゃ足りない。この世の言語では比喩し切れない程の圧倒的な幸運だ。
「なんだそりゃ! イカサマか!?」
「うるさいわね。初プレイの自動雀卓でそんな容易くイカサマができるわけないじゃない。男なら潔く負けを認めなさい」
「事件を解決できただけでもツイてるのに、ここでもこんな幸運を発揮しちゃうなんて、かなみょんさすがだね。さっき5歳で異能の力に目醒めて幸運体質になったって言ってたけど、強ち間違いじゃないかもね」
「そうね。たった今、異能の力に目醒めてしまったかしら」
「嘘だろぉ〜、連絡先ィ〜」
有馬が心此処に在らずと言った顔をしている。
「ふふ、皆さん楽しそうで何よりです! みんなであの状況から生きて帰ってこれて、こんなに楽しい時間まで過ごせて、本当に幸せです。私、本当は先程かなり絶望してしまい、生きる希望が一切なかったのですが今は真逆です! こうなった以上、職を失うだろうけど、まだまだ人生捨てたもんじゃないですね」
「僕らも山代さんに笑顔が戻って何よりですよ! 職を失う辛さなんて、大学生の僕には分かりっこないですが、山代さんならすぐに次の仕事も見つかりますよ、きっと」
「はい出た〜。マダムキラー」
いつの間に有馬が復活している。
「うるさい。それに山代さんはマダムなんて年齢じゃないだろ」
「そうですよ〜、有馬さん?」
山代さんは笑顔だが右手の握り拳がわなわなと震えている。
「これは言葉の綾です! ごめんなさい! 山代さんはまだまだ若くて素敵な女性です!」
「冗談ですよ、怒ってませんよ」
「あまりにも能天気すぎる会話ね。まるで古典的なアニメを見ている気分だわ。貴方達お笑いトリオでも組めばいいんじゃない?」
かなみょんの鋭い指摘が入ると同時に部屋のドアが開き、先程の小太りの警察幹部が入ってきた。
「おや、麻雀ですか。私も職務を投げ出して打ちたいもんですなぁ。それはそうとお待たせしました。お話をお伺いさせて頂きますよ」
50万人の証言者 春谷園春太 @haruta_novel
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