第5話 出前のデマちゃん
僕らは今回得られた情報を早速共有することに。勿論オーナーに関して探った情報は伏せ、指宿さんは誰もが殺す動機を持ち合わせていたこと。それから指宿さんは菜食主義でハンバーガーは間違いなく指宿さんが自ら食べようとしていたものではないこと。その2点を共有した。
「……ということなんだ。この件についてはどう思う?」
「毒殺や睡眠薬混入の線は除外されているのだから、少なくとも食事が目的でそこに置いてあることになるわよね? でも指宿千賀による食事ではない。ていうか、ちょっと脱線するけど勤務中にファーストフードを昼食にするってどうなのよ」
「その点は私もついさっき気になったところです。我が社の決まりでは、休憩や食事による外出は勤務時間内は禁止となっております。福利厚生でフードコートでの食事が無料であり、どのスタッフも基本的にはそちらで食べています。ここからは指宿さんが食べる前提での推測となりますが、このハンバーガーとポテトは出勤前の朝に購入され、それを昼食時に食べることになります。時間が経ったファーストフードはあまり美味しいとは言えません。それをわざわざ朝購入してまで食べるのでしょうか?」
「なんで朝買う前提になってんだ? 俺のバイト先だと昼休憩の時に『出前のデマちゃん』でハンバーガーやポテトを頼むこと、よくあるぜ。そうすれば職場を離れずにファーストフードを楽しめるんだぜ」
「オーナー、もしかしてウチのスタッフじゃなくて出前の人が指宿さんを殺したとかありません……?」
山代さんの発言でその場にいる全員の表情がほぼ同時に緊迫した物となった。差し詰め、事件解決一歩手前に来たとでも思い込んでいるのだろう。でも不可解な点がある。
「みんなもしかして出前の人が殺したって結論かな? 出前を指宿さんに届けに行くには指宿さんから注文を受けなければならない。だから出前の人は意図的に来る事はできないはずだよ。それにハンバーガーとポテトを指宿さんは注文しないはずだよね、指宿さんの嗜好的に」
今度は全員が同時に落胆の表情を浮かべた。ただ僕としては出前という思考に至らなかったから、出前の線も完全に排除せずに片隅にはいれておきたいと思った。
「ところでオーナーさん。岩盤浴エリアのスタッフルームは裏口のようなところはありますか?」
「岩盤浴エリアには裏口がないので、客間からスタッフルーム入り口を通っていく形になりますね」
「そうなると必然的にスタッフも客も全員が僕たちの登ってきたこの階段を登って岩盤浴エリアに来ることになる、ということですよね?」
「はい、そうなります」
「分かりました。ありがとうございます。そうしたら再びまた聞き込みに行きたいと思います。ほら、有馬。行くよ」
「お前はなんで俺を毎回連れていくんだよ! 俺のこと大好きかよ!」
「1人で得た聞き込みより2人で聞いていた方が確実だからさ。それにこのメンバーの中じゃ1番信頼できるしね」
「しゃあねぇな。ちょっくら行ってきますか」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
僕は1階から2階にかけての階段のすぐ手前にある岩盤浴エリアフロントのスタッフに話を聞くことにした。今度は箱根さんという少し年配のスタッフが快く対応してくれる事となった。
「今日の事なんですけど、箱根さんは何時から出勤していました?」
「朝7時からだよ。それがどうしたんだい?」
「それはそれは好都合です。昼時に出前が来たりしませんでした?」
「あんたよく知ってるね〜。最近流行りの誰でも即座にバイトができるっていうアレだよ、なんていうんだっけ?」
「出前のデマちゃんですね」
「そうそう! デマちゃん! そのデマちゃんの人が来たんだけどね。最初はそうは思わなかったよ。おっきなクーラーボックス抱えてたから釣り帰りのあんちゃんかと思っちゃったさ」
「その人はクーラーボックス以外に荷物を抱えていましたか?」
「いいや、クーラーボックスだけだったね」
「そうでしたか! それは貴重な手がかりとなるでしょう! ありがとうございます! それからあと1点、別府剛さんについて知ってることを何でもいいので、お話していただけると助かります」
「あたしゃ一介のパートスタッフにすぎないんだけどね、彼の事はよ〜く知ってるよ。最初は凛々しい男性って感じだったんだけどね、なんでか来る回数を重ねるごとに酩酊状態で来ることが多くなってね。悪い酒癖はつかなさそうな人だったんだけどねぇ。本来だったらそんな状態で岩盤浴は危険だから通すことはできないんだけど、ウチで一番の常連だから断るに断れなくってさぁ。亡くなったのも間接的にあたしのせいなんかね……」
回数を重ねるごとに酩酊状態のような様子だったのか。しかし僕が接触した際は酒のような香りはしなかった。もしかすると……
「絶対に箱根さんのせいではありませんよ! 証拠もまだ出揃ってないのでハッキリは言えませんが、僕があなたの無実を証明してみせます!」
「あらあら、こんな老ぼれを元気づけてくれてありがとうねぇ」
僕と有馬は箱根さんから少し離れたところで小会議を開いた。
「お前さぁ、黙って聞いてたけど質問の意図がめちゃくちゃじゃん! 出前の人に意図的な犯行は不可能なんだろ? それから指宿千賀と別府剛の事件は別々に考えるって言ったのお前だろ?」
「そうじゃないんだ。よく聞いてて。まず先に言っておきたいのが、絶対に2階に行った時には内緒にしてほしいんだけど僕はオーナーさんから黒い何かを感じる。少なくとも別府さんの方とは関わっていると思う」
「えっ!? でもかなみょんが言ってたとおり、金づるともなる常連をわざわざ殺すか?」
「その点はまだ証拠が出揃ってないから分からないけど、オーナーさんは間違いなく関わっているよ。じゃなきゃあんなに焦ったりしないはず」
「勿体ぶってないでどこがどう怪しいか言ってくれればいいのによぉ。ま、いいや。今回はお前が突き進む道を着いてくよ」
「ありがとう!」
「それで、出前の方は? どう解釈してんだ?」
「僕も出前の線はほとんどないと思ったけど一応聞いておくぐらいのつもりでいたんだ。でも実際にきていた。それにクーラーボックスしか抱えていなかったんだよ! 現場をよく思い出して!」
「そっか! 俺でも分かった! ハンバーガーやポテトをクーラーボックスで運ぶわけないもんな!」
「そういうこと! だから出前の人が何かしら事件に関わっていたことには間違いない! 出前に気づいてくれた有馬がいてくれて助かったよ!」
「おいおい、そんなに褒めても何も出ないぞ!」
僕の気持ちも有馬の気持ちもかなり高揚してきた。いよいよ事件も大詰めだ! 再びこの不審な点を上で待機してる3人に通達しに行こう!
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