第3話 第2の死体

 僕らはスタッフから第2の死体を告げられ、岩盤浴室へ連れてこられた。


「オーナーがお客様方を掃けた後、岩盤浴エリアに居残っているお客様がいないか巡回していました所、岩盤浴室内に1人残っているのを確認しました。すぐに浴室内へ向かうと、こちらが呼びかけても返事がありませんでした。熟睡しているのかと思いましたが、あまりにも起きないので手首に手を添えてみましたところ、脈を打っていないのが確認できました。恐らくもう……」


 やけにオーナーの表情から焦りの様子が読み取れる。やましい事を何か抱えているのか、それともいよいよ警察へ通報しなくてはならないことを危惧しているのか。そもそも企業秘密を知られたくないからって警察への通報を渋るのだろうか…… オーナーは何かしらの秘匿を抱えているのでは……?


「なぁオーナーさん。そのスタッフ、どっちの死体も第一発見者だし少し怪しいんじゃねえの?」


 有馬は第一発見者のスタッフを疑っているようだ。


「紹介しておきます。彼女は山代桜。新人であるため本性は計り知れませんが、今のところ私の見解では虫1匹殺せない性格の心優しき人です。新しい仕事に取り掛かる際も臆病且つ慎重なので彼女は性分的に殺しは不可能だと思います」


「オーナー! 私を守ってくれてありがとうございます! 上司の鑑です!」


 ひとまず有馬から向けられた彼女への疑いが収まり、こちらの死体状況についての検証に入った。


「そういえばそんなに暖かくないけど、岩盤浴ってもうちょっと暑いんじゃないですか?」


 何気ない質問だったつもりだが、再びオーナーに焦りが見えた。


「が、岩盤浴エリア閉鎖と同時に第1ボイラールームと第2ボイラールームの機能は停止させたから暑くないのですよ」


「当店では第2ボイラールームが熱源となっております。第2ボイラールームから岩盤の暖めが行われ、第1ボイラールームでは当店自慢のリラックス効果のあるアロマが焚かれ、あちらのダクトから送られてくる形となっております。私はまだ新人なので第1ボイラールームの管理は許されていませんが、ゆくゆくは第1ボイラールームの管理も一人前にできるように精進するつもりです!」

 

 オーナーの発言の後に続くように山代さんがこの店のシステムを教えてくれた。


「山代さん! 事件に関係ないことは言わなくていいです!」


「ごっ、ごめんなさい! 何か小さな事でも手がかりになると思って、みなさんに共有しようかなと思って言ってしまいました! 気をつけます!」


 ここいらで僕のオーナーに対する疑惑が確信的な物となった。今回の殺人事件に関与しているかどうかは別として、如何わしい何かを抱えている事は間違いない。内部の事情の深淵へと行けば行くほど動揺している。やはり鍵となるのは第1ボイラールームだろうか?


「いらないと思った情報でも惜しみなく出してもらったほうが事件解決に繋がるわ。それとこっちの死体だけど、事故死の線もなくはないわね」


「かなみょん、なんか見当でもついてんのか?」


「全貌は見えてないけど、いくつか予想を立ててるだけよ。事故死の線を追うならば、長時間滞在してのぼせて転倒。そして頭を打つってところね」


 かなみょんの助言で僕はすぐさま死体の頭部をさすってみると、特に外傷は見られなかった。死ぬほどの大きな衝撃を受けたのならば凹むか、あるいはコブができていてもおかしくないだろう。


「特に目立った外傷もないし凹みもなければコブもなし。もしかしたらこっちも事故死じゃなくて事件なのかも……」


「仕事が早いわね。ところでさっきの死体は指宿千賀と分かったけどこっちの死体は何て呼べばいいのかしら。死体死体呼んでも縁起が悪いし」


「そうそう、それが気になっていたんですよ。オーナー、この人ってもしかしてウチのナンバーワン常連の別府剛さんではありませんか?」


「ええ、そうですね。こちら当店一の常連である別府剛さんです」


「ふぅん、ナンバーワンの常連ねぇ。正直に言うと私、いろいろと動揺しているオーナーが怪しいと思ったんだけど一時疑いの線から外すわ。言い方悪いけどそんな金づるをオーナー自ら手にかけるわけがないわ」


 どうやらかなみょんも僕同様にオーナーを疑っていたようだ。確かにかなみょんの言ってる事は正しい。でもオーナーの秘匿はそんな単純な事だろうか? とりあえず今は何1つ解けていない状況だ。オーナーのことは脳の片隅に置きつつも事件の事を考えよう。


「んで、死体が増えたわけだけど。2つの死体に因果関係はあんのか? 月岡はなんか分かった?」


「まだ分からない。とりあえず両方を同時に紐づけて考えるよりも1つ1つ別個で解決して行く方が合理的だと思う」


 僕らは別府剛氏の件をひとまず置いておき、指宿千賀の件を精査することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る