机上の想い

作花 恋凪

机上の想い

「聞いてくれ。俺……ずっと前から、お前のことが好きなんだ。よかったら、俺と付き合ってほしい……!」


──俺の心臓の音だけが、強く内側から響いてくる。まさか、こんな俺にも緊張することがあるなんてな。こういう感覚、久しぶりだ。


「寺島君……。」


緊張するけど、フラれることはないと思ってるんだ。小さいころからずっと一緒だったし、周りからは、カップル認定だってされていた。……さぁ、返事は──



─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─



「っ……ふわあぁぁ……」


俺は、いつも通り、自分の部屋のベッドで目を覚ました。……いつの間に寝てしまっていたんだろう。


学校へ行く支度をしながら、昨日の放課後のことを思い出す。本当は思い出したくないが、自然と頭に思い浮かんでしまう……


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


「……ごめんなさい。寺島君の気持ちには、答えられないわ。」


「……へっ?」


「寺島君とは……ずっとこのまま、友達として仲良くしていきたいの。……本当にごめんなさい。」


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


その先の記憶はない。だって、あまりにもショックすぎたんだ。


「俺……振られたんだな。」


言葉にして、それを現実のものとして噛み締める。1日経った今は、不思議と昨日のショックも大分薄れてきていた。


学校へ行く支度を終えた俺は、いつも通り親に挨拶して家を出ようとする。


「行ってきまーす!」


……だが、返事は何も帰ってこない。あれ?おかしいな……。疲れてまだ眠っちゃってるのかな?ならいいんだけど。


─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─


学校への道は、大体歩いて15分くらいだ。その道の途中に、犬を飼っている家がある。


「おはよっ!今日も元気か?」


俺がそう声をかけると、


「ヴヴ〜……ワンッ!ワンッ!!」


いつもは早く行け、とでも言うようにクールにあしらわれるのだが、なぜか全力で吠えられた。


「なんだよ〜……機嫌悪いのか?」


それとも、彼女だけじゃなく、犬にも嫌われた、とか?……ま、そんなわけないだろうけど。


にしても今日は、動物からの視線が痛いな……。犬も猫も鳥も、全員俺のことを見てやがる。嫌われたんじゃなくて、動物からも人気者になったってことか?w


っていうか、いつもよりなんか、体が軽い。色々吹っ切れたからかな。……今日はいいことありそうだな!


そう思いながら歩いていると、いつの間にか学校に着いていた。下駄箱には、俺がいつも仲良くしている親友がいた。


「おぉ!朝会うなんて珍しいな?おはよっ!!」


俺は笑顔で話しかけた。が。


「……」


一瞬目が合ったような気がしたが、俺には目もくれず、スタスタと歩いて行ってしまった。


……なんでだ?俺、何も悪いことしてないはずだが……。もしかして、昨日の告白がもう広まってるとか?いやでも、彼女がそんなことをするはずないし。じゃあ、あれを聞いていた人がいたのか……?


不審に思いながら、教室に向かう。いつもなら廊下で誰かしらに捕まって、


『寺島、おっはよーぅ!』

『冥、宿題写させてくれよ〜!w』

『寺島君、よかったらここ教えてくれない?』


だの言われるのに、今日は不思議なくらい静かだ。それどころか、誰も目が合わない。あげくの果てには、俺とぶつかった男子が、驚いた顔をして、ぶつかったところをサッサッとほろう始末だ。


嫌な冷や汗をかく。なんとか平常心を装いながら、教室に入ろうとする。


「みんなー!おはよーう!!今日も元k……」


そこで俺は、言葉を止めてしまった。だって、見てしまったんだ。俺の机に、花とたくさんの落書きがされたノートがあるのを。


耐えられず、その場から逃げ出した。こんなことってあるか……!?


トイレに逃げ込み、鍵をかける。


「う゛わ゛あ゛あぁーー!」


声の大きさも気にせず、俺は大声で叫んだ。こんなこと、初めてだったんだ。


成績はいつも1位。スポーツも万能。生徒会長をやっていて、生徒からの評判も最高だった。俺も、みんなの期待に答えたくて、今まで頑張ってきた。


「それなのに、こんなことあるかよっ━━!」


授業開始のチャイムが鳴っても、俺は気持ちを落ち着かせることができなくて。いつの間にか眠ってしまっていたんだ。


─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─


俺は、数時間後、やっと目を覚ました。今、何時だ……?


スマホを見ると、もう17時。いつの間にか、授業は全部終わってしまっていた。あぁ、俺、授業サボっちゃったんだな。


俺は立ち上がって、机の上をを片付けようと、教室に向かった。俺の気持ちとは反対に、夕暮れの教室は、恨めしいぐらい綺麗だった。


まず俺は最初に、落書きでほぼ真っ黒になったノートを片付けようとした。……が、ノートの落書きを見た瞬間、俺は泣き崩れてしまった。


そこには……


『もっとたくさん話したかったよ……!』

『寺島君のこと、みんな大好きだったよ。』

『こんな急な別れってあるかよ……』

『神様は意地悪だね。冥君みたいな人の命をこんなに早く摘んでしまうなんて。』


俺への感謝と追悼の言葉が、ノートいっぱいに書かれていた。


「そっか、俺、告白したあとの帰り……死んじゃったんだ……」


俺は、目を涙でいっぱいにして微笑みながら、机の上の花──ユリの花の花びらに、そっと触れた。


─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─


十数分後、教室。


「──きっと、あんたが1番悲しかったよね。」


「どうだろ。でも、昨日の告白、もっと違う返事ができたかもしれなかったな……。」


「告白されてたの!?寺島君に!?」


「うん。……どうか、安らかに眠ってくれますように……。」


ユリの花びらが1枚、音もなく落ちた。

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