第18話 霧の晴れる時
これまで霧の魔物達には強烈な効果を発揮してきた【燈火】の不意打ちに、シギリは迅速に反応した。こと切れたミラギの死体を掲げて盾代わりにして、シギリは降り注ぐ太陽神の奇跡を防いだのである。
【燈火】による奇襲が不発に終わった瞬間、ネフェシュとアーリは動いた。それぞれ左右から挟み込むようにシギリへと駆け出す。
「フー、オマエタチノ動キハ想定内ダ」
シギリの台詞の直後、ミラギの死体の影から五本に分かれた触手が飛び出し、鋭い先端のそれらはウパウが背後に庇うアシャを狙っていた。太陽神の奇跡を起こすアシャがもっとも目障りなのだと、その行動が暗に証明している。
五本の触手は、しかしてその目的を果たせなかった。既にウパウがアシャを抱えてその場を離れ、巨石の影に隠れながら移動し続けていたからだ。
「こちらもその程度は想定内でしてな。アシャ殿、しっかりと捕まっていて下され」
「ははは、はい!」
「そら!」
ウパウは重力から解放されているような身軽な動きで巨石の一つの上に飛び上がると、左手でアシャを抱えた姿勢から右手をシギリへ向けて一振り。
ウパウの袂から金属の擦れる音と共にシギリへと襲い掛かるものがあった。鉄の蛇の如き鎖分銅だ。ウパウが袂の中に隠していた暗器は、シギリの触手に対する意趣返しのように襲い掛かり、シギリはこれを左に飛んで避ける。そのついでにミラギの亡骸は放り捨てた。
シギリがウパウの鎖分銅を避けた直後、ネフェシュの鉄拳とアーリの小剣が立て続けに彼へと襲い掛かる。
「でぇい!!」
「はっ!」
「遅イナ」
シギリの両肘から先で触手が複雑に絡み合い、巨大な刃を形作る。アダマストラの拳と小剣の刃をやすやすと受け止めると、シギリはミストマンとは比較にならない動きの速さと一撃の重さで二人を翻弄してのける。
「この、流石にこれまでの相手とは一味違いますね!」
シギリが大上段から振り下ろした右刃を、ネフェシュは両腕を交差させて受け止める。その足がくるぶしまで地面に埋まり、その一撃に込められた威力の凄まじさを物語った。
だが同時にシギリの動きが止まった、とアーリは小剣を振りかぶり、シギリの首を斬り落とすべく迫る。
「フー」
とシギリの頭部の隙間から白い霧が零れだし、シギリの左刃は関節の作りを無視して動き、アーリの小剣を受け止める。
人間ならば肘の側に腕が曲がる事はないが、人間ではないシギリにとって痛痒はなにもないようで、逆に曲がった左腕で力強くアーリを押し飛ばした。
(いけない、人間の形をしているからそう思い込んでしまうけれど、こいつは人間じゃないんだ。首が一回転するかもしれないし、心臓は胸にないかもしれない。相手が人間じゃない事、人間と体の造りが違う事を意識しないと思わぬところで不意を突かれる!)
シギリは両腕を刃の形に固定したかと思えば何本もの触手に変えて縦横無尽に振るい、攻撃だけでなく、巨大な盾にしてウパウの操る鎖分銅や短刀を受け止めるといった器用な真似をしてのける。
肉体そのものが武器であり防具であり、そしてそれを柔軟に使いこなす知性こそが最も厄介なのかもしれない。
「儚イ抵抗ダ。徒労ニ終ワルト悟ルノハ、己ノ命ヲ失ッタ時カ。哀レナモノダ」
アーリとネフェシュとウパウ三名からの攻撃に晒され続けても、シギリに焦りらしいものは見受けられない。彼にそういった人間的な感情があるかは不明だが、少なくともこの状況を問題視していないのは間違いない。
次第に流暢に喋るようになっているシギリに、巨石の影から影へ移動しているユヴァが問いを投げかけた。
「霧の向こうから来た者よ。お前達の目的はなんだ。この霧はあくまで手段に過ぎまい。なにより今、広がっている霧とお前が吐き出している霧とでは成分が異なる。本当の意味で広めたい霧は、お前が吐き出しているものと同じ成分の方だろう」
「フム。知恵ノ回ル魔術士ダ。好奇心旺盛ナ魔術士トイウ輩ハ取引シヤスイガ、同時ニ警戒ニ値モスル」
「ふん。警戒する相手からの問いに答えるつもりはないということか?」
「フー、ソレハ早計トイウモノダ。時間稼ギノ会話カ? ソレモ興味深イ。当然、コチラニトッテモ都合ガ良イト分カッテイテ、口ヲ開イテイルノダロウナ?」
「ちっ、やはり時間は貴様らの味方か。霧を世界の端にまで広げて、順次、そちら側の霧と同じ成分に変える事で生息域を広げる。どうせそんなところだろう。
過去に異次元からやってきた侵略者やディメンジョンウォーカーの類は、そうして自分達が行動するのに支障がないように手を回していたと記録にある」
「ソウイウ事ダ。コチラデ活動スル以上ハ、コチラノ法則ニ従ワナケレバナラン。ダガソレデハ我ラノ本領ヲ発揮デキズ、マタ煩ラシイ事コノ上ナイ。ナラバコチラ側モ我ラノ側ト同ジニシテシマエバ済ム。シンプルナ解決方法ダロウ?」
あっさりと目的を吐露するシギリに、アーリは何度も斬りかかりながら詰問した。シギリはユヴァと問答している間もアーリらから絶え間ない攻撃を受けているが、その全てを捌いて攻撃を受けていない。ミストマンとは比べ物にならない身体能力と戦闘技術だ。
「だったら、そっちの霧が広がりきったら、元から住んでいた人間はどうなる? 生き物は!?」
「フー、薄々察シテイルだろウ? お前達は装備カ魔術ニヨル保護を受けてイるガ、そうでない生物ニトッテ、我らの霧ハ毒とナる。強靭な種族ヤ一部ノ個体は生き残レテも、お前のヨウナ人間種は、まず助カラナイダロウ。気の毒な事だ。なあ?」
最後だけ流暢な言葉づかいで語ったシギリは、挑発でもしているつもりだったのだろう。そしてそれはアーリにとって十分に効果があった。こちら側の生き物がどれだけ死のうとかまわないと、シギリはそう告げたのだから。
「お前!」
「分かりやすい。青い、というのだったか、こちらでは?」
正面から突っ込むアーリに向けて、シギリの左手が突き出される。手首から先が糸のように細く変わり、それらが疾風の速さでアーリへと殺到する。
アーリは咄嗟に踏ん張って突進の方向を右に変えながら、左手の丸盾で無数の糸を受け止めた。金属製の丸盾が粉砕されるまでの一瞬が、アーリの回避行動を間に合わせて、丸盾の損失と引き換えにアーリの生命を救う。
引き戻された千本を超える糸が再びアーリに突き出され、それを横から割って入ったネフェシュが右拳を叩きつけて迎え撃つ!
「稼働率百!
アダマストラ右腕部に充填された魔術がネフェシュの操作によって起動して、右拳の先に発生した小さな嵐の如き旋風が、シギリの糸の槍を根元から引きちぎり、更に細かく寸断して行く。
「ほウ」
「アーリさん、落ち着いてください。あの方の言葉には私も怒り心頭プンプンですが、心は燃やしても思考は冷静に。ここであの方を打破するのが、霧の拡散を防ぐ最良最善の手段になります」
「っ、ごめん。それとありがとう」
ネフェシュに庇われて、アーリは頭に昇った血が下りてゆくのを感じた。どんなに熱くなっても、視野を狭めてはいけない。思考するのを忘れてはいけない。そう、両親の手記にも書いてあったではないか。
「隙あり!」
千切れた左手を別の形に変えているシギリへ、ウパウの声が鋭く突き刺さる。声の発生源へと向けて、シギリの左手が長槍と変わって突き出され、しかし、長槍はなにもない虚空を貫く。
ウパウが巨石の反響を利用して、自分の声の出所を変えたのだ。わざと声を発して相手に攻撃を伝え、あらぬ方向に注意を引かせる熟練暗殺者の常套手段である。
シギリの両膝を二本の鎖分銅が砕き、肉の中に分銅がめり込んでシギリの態勢が崩れたところへ、ウパウが両手に棍を持って襲い掛かる。
「しぇあ!」
「小癪だな」
ウパウの間合いまであとわずかと言ったところで、シギリの吐き出す霧が渦を巻いて短剣の形状となる。十数本作られた霧の短剣が一斉にウパウへと! 全身に短剣を生やした狼の姿を連想し、アーリとネフェシュは短い悲鳴を上げた。
「ああっ!?」
「ウパウさん!」
いくらウパウでも回避が間に合わないだろ近距離からの襲撃に、ウパウは両腕を黒い風のように振るい、目にも止まらぬ連撃で霧の短剣全てを破壊してのける。盲目の元僧兵の戦闘能力はアーリの想像を大きく超えるものだった。
「月の宮の主よ、静かなる月を照らす光の一筋をお恵みあれ。【
更に追加で撃ちだされる霧の短剣を空中で捌きながら、ウパウは信仰する月の女神に奇跡を祈る。敬虔なる信徒からの祈りに神は答え、シギリの頭上に無数の白々と輝く月光の矢が生じる。
「チッ!」
霧と大気を貫いて降り注ぐニ十本近い【月降矢】が次々とシギリの体へと突き立ち、シギリは痛みこそ感じていない様子だが、苛立ちを感じている様子は隠せない。
シギリの攻撃の手が緩んだ隙にウパウが着地し、地を這うように低く屈んだ姿勢でシギリへ迫る。
「やはり太陽神の次にお前が厄介だったな」
迫るウパウへ、シギリは膝にめり込んだ分銅を吐き出し、砕けた両膝からそのまま無数の棘を生やしてウパウを串刺しにせんと図った。
ウパウは、即席の槍衾を両手の棍で可能な限り受け止めて、鼻の先にまで迫っている棘を見ながら聞き逃さなかった一言を口にする。
「
「いと高き座にて輝く太陽神ソルゼ、その大いなる輝きをお示しください。【燈火】よ、あれ!」
その時、ウパウから降ろされて巨石の影に隠れていたアシャが飛び出して、動きを止めているシギリに向けて錫杖を掲げて、神に祈りを捧げる。
霧の住人にとって大敵である陽光を発生させる神の奇跡に、シギリは本能的な嫌悪を感じながら防御態勢に入る。両膝から伸ばした棘を戻し、その場から後方へ跳躍すると周囲の霧を集めて半球形の膜を作り出して即席の日除けの盾とする。
よりにもよって【燈火】を扱える太陽神の神官がこうも早く現場に現れるとは、シギリ達霧の住人にとって特大の不運であった。
「……? ブラフか!」
人間で言えば火で肌を焼かれる苦痛に身構えたシギリだが、一向に太陽神の奇跡が発生しないことに、シギリの行動を誘導する為のブラフであったのを即座に理解する。だが、それは遅きに失した。
「魔力抽出終了、術式疾走、
ネフェシュが前後に足を開き、しっかりと重心を安定させた姿勢で、左手をシギリへと構えていた。左腕部に装填された魔力が術式を刻んだ結晶に注入され、特大の紫色の炎の棘付き鉄球が作り出される。
それを躊躇なくネフェシュは掴み取り、それを思い切りよく振りかぶってシギリへと投げつける。掴んだまま振り回したり、今のように投げつけたりする用途の魔術であった。
紫炎鉄球はシギリの作った半球形の霧の膜を砕き、そのまま彼の右半身に直撃して、大きく吹き飛ばして巨石の一つに激突させる。
「がぁ!?」
シギリの右半身は直撃した箇所を中心に黒く焼け焦げて、罅割れていた。鎧じみた彼の表皮も、紫炎鉄球の一撃の前には耐え切れなかったのだ。そしてそれを見逃すアーリとウパウではない。
「御免!」
音もなく風のように走り寄ったウパウの両手が動き、嵐のような連打がシギリの右半身を砕くべく襲い掛かる。一撃、二撃、三撃と連続して打撃を受けたシギリだったが、彼は焼き焦げた個所をトカゲの尻尾切りのように切り離して、ウパウの連打から脱出して見せる。
「ゼァッ!」
「ぬ、器用な」
シギリは別の巨石に伸ばした触手を巻き付けて、そちらへと体を引き寄せる事で脱出に成功する。その間にも右半身は見る間に再生を果たしており、それは周囲の霧を取り込みながら行われていた。
向こう側の霧を使って武器を作り出したように、彼にとっては体そのものも霧を使って作っているのかもしれない。
巨石に戻る途中のシギリの前に、小剣を両手で振りかぶるアーリの姿があった。ウパウの脱出から逃れた時点で、シギリの逃げる道筋を読んでいたのだろう。
シギリはすぐさま再生途中の右腕に細長い刃を作り出し、逆にアーリを返り討ちにすべく刺突の構えを取る。この瞬間、アーリの神経は限界にまで研ぎ澄まされていた。
(狙うのは触手の方、離脱を阻止するのを優先する。その為には動けなくなる【黒ノ一閃】じゃだめだ。さっき使った斬撃だけ加速させる技、あれなら使った後でも動ける!)
ドクロガミを相手に使った時はひどく消耗したが、一度、あの消耗を経験した後ならば覚悟が出来る。それならば使用後もシギリと戦えるだけの動きは出来ると、アーリは判断していた。
「君か!」
アーリに見知ったような反応をするシギリに疑問を抱く余裕もなく、アーリは改良した技のイメージに集中していた。
振りかぶった小剣が目に見えない鞘に納められていて、それを抜いた時に自分の体ごとではなく、腕と刃のみを加速させるイメージ。足は止めて、腕の振りを、重心の移動を、刃の動きだけを高速化させる。
小剣にのみ暗黒の光が宿り、霧の白を全て飲み込むようなその闇黒に、シギリの瞳に明確な驚愕と恐怖とが宿る。霧の住人である彼をして理解の及ばぬ力が、アーリの小剣に宿っているのだ!
「はあああ!」
漆黒の奇跡を描いて、アーリの黒く輝く小剣はシギリの右腕が動くよりも早く左の触手を鮮やかに断ち切っていた。アーリはそのまま呼吸することさえも惜しみ、振り下ろした小剣を思い切り振り上げる。
全力で振り下ろした刃を切り返す、というのは言葉にするのは簡単だが、実行するとなればそれは高い難易度となる。それをこうも素早く行えるのは、アーリに与えられたアンシャナの祝福の恩恵に他ならない。
漆黒の刃の二撃目はシギリの左脇腹から入り、そのままするりと呆気ないくらいにシギリの胴体を両断した。
触手による引き寄せの勢いのまま、両断されたシギリの体は地面に激突して何度も跳ねながら転がり回り、巨石の一つに激突してようやく動きが止まる。
アーリは小剣をだらんと垂らし、どっと吹き出す汗と荒れる呼吸を必死に整えながら両断したシギリを睨む。
「名づけるなら……はあ、はあ、なんだろ。【
勝手に名付けて、神様が許してくれると良いけれど、そう心配するアーリの耳に苦しんでいる様子がわずかもないシギリの声が届いた。
「フー、これは参ったな」
シギリは体を両断されても苦痛を滲ませもしなかったが、心底からどうしようもないと言った調子で喋る。
両断された二つの体の断面から徐々に霧へと溶け始めていて、どうやら苦痛はなくとも彼の打破には成功したようだ、とアーリは少しだけ緊張を解いた。
「安心したまえ。この躯体は既に活動限界を超えてしまった。周囲の霧から補填しても活動を再開させることは不可能だ。まったく、君達のような使い手が一つ星の冒険者とは。このような事態に対する為の隠し札か? もっと上位の実力ではないか」
「ふう、ふう、昨日今日、出会ったばかり、さ」
「階級詐欺もいいところ、だな」
やけに人間臭い言い方をするな、とアーリは小剣を構え直し、やや重い足取りで消えゆくシギリへと近づいて行く。
「せっかく新しい領土を獲得できると奮起したというのに、情けない結果に終わったな。先にここに来ていた冒険者達と比べて、君達は随分と手強かった。合流される前に潰しておきたかったのだがな」
やれやれと嘆息するシギリの姿に、弱ったふりではないか、という疑いはアーリの中にまだ残っている。悠長に喋り過ぎだろう、コイツ、と疑わざるを得ないわけだ。
そのアーリの背後でぐちゃ、と肉を潰す音がした。アシャを傍らに置いたウパウが、俯せに倒れていたミラギの骸の心臓に、右手の棍を逆手に持って突き立てていたのだ。
「お喋りをしている間にこちらの傀儡を使って奇襲、ですかな?」
「フー…………なぜ、分かった?」
「手応えからして中身を乗っ取って動かしていたようですが、人間の演技が未熟ですな。どこが未熟だったかは言いませんぞ。次に活かされては堪ったものではありませぬゆえ」
ミラギに対する疑惑と不審を抱いたのはウパウばかりでない。アーリもミラギの素振りが、仲間を失ったにしてはあまりに陽気過ぎたと感じている。
仲間を失った悲嘆を隠して、あえてそのように振舞っていると演出したかったのだろうが、それにしても失った仲間に対する感情が無さすぎる。それにアレだけ返り血を浴びておいて、自分だけ傷がないのも妙だった。
ウパウからすればミラギから聞こえる心臓の音が常に一定だったのも、怪しむのに十分な理由だった。脈が乱れる筈の状況でも常に一定とあっては、疑うなという方が無理だ。
総じて、シギリは人間に紛れる演技を確かにしてはいたが、まだまだ詰めが甘かったという他ない。次もそうであればいいが、今回の事で学習されでもしたら厄介な事になるだろう。
「戦闘だけでなく観察眼も一級か。君達はさっさと四つ星や五つ星になるべきだな。そういう実力を詐称する真似は控えるべきだぞ。しかし、これで切り札も潰されてしま……」
シギリの言葉をドゴン! と大きな音を立てて巨石が倒れる音が遮った。ネフェシュがユヴァの指示に従って一つ一つ、巨石を倒し始めていた。
「ネフェシュ、次は右手前のものを倒せ。その次は左斜め前方三つ奥のものだ。ふん、この巨石も決まった順番で倒さなければ、向こう側との繋がりが閉じらないように細工してあるのだろう? お前達が戦っている間に解析させてもらったぞ?」
くゆりと尻尾を揺らして、ユヴァが倒れるシギリを振り返って告げる。その間にも、ネフェシュはユヴァの指示に従って次々と巨石を倒しており、シギリの目論見をご破算にさせている。
それを見て、シギリは深く長く溜息を吐いた。今度こそ本当に、彼が仕込んでおいた保険が全て潰えたことを認めたのだ。
「本当にこちらの手札をすべて潰されたか。やれやれ、これではどんなにどやされるか分かったものではない。
君達、一つ忠告しておこう。我々はこの程度では諦めない。そして私は所詮、一指揮官に過ぎない。こちら側を我らの領域、こちらの言葉で言えば
「随分とお喋りなんだな。それもなにかの時間稼ぎか?」
当たり前の疑念と警戒を抱くアーリに、シギリはフーと溜息のように霧を吐き出しながら答えた。
「安心しろ。本当にこれ以上、こちらの手札はない。言っただろう、私の同胞達はまだまだ諦めないと。失敗するのが私だけでは腹立たしいから、私以外の同胞の計画も遭遇したら必ず潰しておいてくれ」
「仲間の計画なのに随分な物言いだな」
「君達ほど博愛と情に満ちた生物ではなくてね。私の指揮でこの世界を我らの霧幻領域にしたいという欲求がそれなりにある。その時にこそ君達を私の手で殺したいものだ。それまではどうか死んでくれるなよ?」
それがシギリの最期の言葉となった。彼の体は最後のいっぺんに至るまで霧の粒子へと還って、跡形もなく消え去り、ネフェシュが最後の巨石を倒したのとほぼ同時だった。
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