第17話 死霧
「私達が気付いた時には、もう周囲を霧に囲まれていたよ。野営用のテントの設営を終えて、物資を集めて管理の手筈や探査の打ち合わせを始めようと、三つ星同士で集まっていた時だったかな」
そう語るのは先程アーリ達に救助を求めたミラギだ。戦闘による負傷も特になく、情報を欲していたアーリ達はミラギを案内人にして、先行していた冒険者達と合流しようとしてしたのだが……。
「私達も即興だけれどそれなりの連携は取れてね。何度かあった襲撃は全て返り討ちにしたのだけれど、有り合わせの防衛陣地ではいつまで持ちこたえられるか分からないし、街に戻って緊急事態だと知らせるのと、救援を求めるパーティーを送り出す事に決めたのさ」
「それがミラギさんのパーティーだったんですね」
アーリはミラギが血に塗れたローブ姿ではあるが、歩くのに支障がないのを確認し、ミラギに話の続きを促す。彼らは今、ミラギが逃げてきた方向へと向かっている最中だ。
「ああ。途中までは上手く行ったんだけれどね。これまで何度か戦闘をした影響か、少し離れたところで立て続けに襲撃があって、私を含めて全員が散り散りになってしまった。幸い、私はこうして君達と合流できたけれど、他の皆は正直、かなり厳しいだろう」
そう言ってミラギは悔しそうに顔を歪めて俯く。三つ星のパーティーが抜けた残留組もかなり厳しい状況に追いやられているはずだ。一刻も早い救助が必要な状況だが、アーリ達がそれでも前に進んでいるのには理由があった。
「前方敵影無し。今のところ、順調ですね。それでミラギさんが見かけたという不審な人影の消えた方向はこのまままっすぐでよろしいのでしょうか?」
ミラギの傍らを歩き、何時でも壁になれるよう備えているネフェシュの言う通り、ミラギは仲間達と逃げている最中に今回の事態の黒幕と思しい人影を目撃していたのだという。
「ああ。とはいえこの霧だ。私もはっきりと見えたわけではないが、冒険者達の誰とも違うのは確かだ。そうなると消去法で件の怪しい人物ってわけだ」
この霧が怪しい人影が発生させたものであるのなら、黒幕を捕まえて霧を消させればとりあえず事態は良い方向に向かう。そう判断してアーリ達はルゾンへの帰還ではなく前進を選んだわけだ。
最後尾を守るウパウが耳と鼻を研ぎ澄ませて警戒しながら、ふと思いついたように口にする。
「それにしてもこの霧に毒がなくてなによりでしたな。霧そのものにこちら側で自然発生するものと相違がないとすれば、やはり日除けが役割なのでしょう。
世界を満たすまでこの霧が広がるのか、それともどこかで止まるのか。霧を広げる目的をどうにか明かしたいところです。ミラギ殿は魔術士として、なにか見解はございますか?」
「私かい? そうだね。霧の中に潜んでいる者達が太陽の光を嫌っているのは確かだし、やはり日除けが第一の目的と推測される。それに霧も今はまだ無害だが、いずれは向こう側の霧と置き換えられる可能性も否定しきれないよ。
濃霧と言うだけでも視界を遮られ、戦闘のみならず日常生活にも支障をきたすほどだ。それがどこまで広がるとも分からずに湧き続けているのだから、市井の人々は混乱と不安に陥るだろうね。
そうしてこちら側の対応が遅れに遅れた後で、向こう側の霧に変ってゆき、気付いた時には霧の全てが有毒なものとなっていた、何て言うのが最悪の展開ではないかな?」
「左様ですか。確かにミラギ殿の言われるように、霧がまだ無害であるうちにこの事態をどうにか解決する目途を立てた方がよろしいように思えますな」
「そうだろう? だから根っこの原因を解決しようという君達の行動は正しいと思うよ?」
ミラギは心強いと言わんばかりに陽気な笑みを浮かべて、アーリ達を振り返った。その顔に共に冒険の日々を過ごしてきた仲間達を失ったかもしれない悲しみや怒りは、欠片も存在していなかった。
アーリ達の行動を推奨するミラギに、ウパウに背中を守られ、正面をアーリに守られているアシャが生来の人見知りゆえか少し警戒しながら問いかける。
「で、でも、三つ星のミラギさん達でも敵わなかった相手に、私達だけで大丈夫でしょうか?」
「太陽神の下僕の君、それは大丈夫だとは思う。私達が散り散りになったのは霧に紛れた怪物達に襲われたからだし、人影とは戦っていないからね。
それに召喚士というのは召喚獣よりも弱いのが相場だ。怪物達の数の脅威はあるが、黒幕自体はそれほど脅威ではないと私は見ている。ましてや太陽神の神官である君が居るのなら、優位に戦える。そう心配する必要はないよ。楽観視さえしなければね」
「は、はい。緊張しすぎないように気を付けます。はい」
そういうアシャは誰が見ても緊張していた。
霧が濃いのに変わりはなかったが、幸いだったのはどれだけ霧に飲まれていても地形そのものは変わっていない点だ。お陰で事前に調達した地図が無駄になっていない。
アーリは沈黙を守っているユヴァを一瞥してから、前方を進むネフェシュとミラギの背中に視線を戻した。
ミツアシなら触腕が霧をかき乱し、キリバチなら羽音がし、ドクロガミならば群れの足音がする。視界が劣悪の一言とはいえ、これまでの戦闘で霧の魔物が出現する前兆をアーリも把握していた。
今のところであったのは三種類。これ以上の霧の魔物が居なければなによりなのだが、そう都合よくいくと思わない方が身のためだろう。
ミラギは草原に敷かれた道から外れて、なだらかな丘の中を進み始める。ぽつぽつと経つ木々の影が白い霧の向こうにぼんやりと透けて見える。
アレが動きを止めているミツアシの足だったり、あるいは未知の怪物だったりする可能性もあるから、アーリはおちおち気を抜けない。
これまでミラギとはぐれた仲間や先行していた冒険者の死体を見かけなかったのは、たまたまか、それとも怪物達に食べられてしまったのか。前者ならばせめて遺体だけでも回収できるが、後者となればそれすら難しい。
ミラギは仲間の敵討ちと意気込んでいるのか、怯えた様子はなくズンズンと進んでゆく。まるで迷いがなく、この霧の中でも自分の進む道がはっきりと分かっているようだ。頼もしいと言えば頼もしい事この上ない。
「それにしても君達に出会えて本当によかったよ。霧の怪物達は数もそうだが得体の知れない奴らだから、私達は思わず不意を突かれてしまってかなりのけが人を出してしまったんだ。何とか皆で助け合って対処していたけれど、それに比べて君達は見事な戦いぶりだ。
ネフェシュさんといったか、君の纏っている鎧のような装備はかなり高度な魔術を用いて作られたものだろうし、アーリ君も戦い方は未成熟なようだが動きの速さと力の強さが並みじゃない。きっと特別な血統か特殊な祝福を受けているんだろう。
それにウパウさんもいつでも二人を助けに行けるようにと構えている姿に隙は微塵もなかったし、実際、動き出して見れば風のように早く、音も立てなかった。
いやはや君達が今回の依頼に駆り出されたのは、何かの間違いなのではないかと思わず思ってしまう程だよ。実は正体を隠したギルドの秘蔵っ子とか王国の特殊部隊とか、そういうオチはないのかい?」
緊張感がないのか、それとも緊張を紛らわせようとしているのか、ミラギの口は止まる事を知らずにぺらぺらと動き、敵性生物の潜む霧に四方を囲まれた状況で、なんとも大胆な真似をする。
アーリやウパウもそれを咎め立てはしなかったが、敵に自分達の位置を知らせるような真似には多少の不安を覚えている。
「いえ、本当に今回の依頼をきっかけに顔を合わせたばかりです。ミラギさんも三つ星の冒険者なんですから、これまでどんな冒険を乗り越えてきたのか、僕としては興味が尽きません。
こんな状況でなかったら、田舎から出てきたばっかりなので、先輩の冒険者の方には色々と話を聞きたいくらいなんです。だから一人でも多くの人に生き残っていて欲しいです
「ううん、そうか。私の目から見てウパウさんは別格だし、先も言ったとおりにネフェシュさんとアーリ君も滅多にみられない長所がある。アシャさんはこれから実力を見せてもらうとしても、今回の事件に太陽神の奇跡はうってつけだ。頼りにしているよ」
「ど、どうも」
アシャは自分を振り返って微笑むミラギに俯きながら答える。こうまで目も合わせようとしないとなると、ミラギに対する人見知りの度合いはかなりのものだろう。ウパウはそれに気づいて、それとなくアシャにいつもより気を遣っている。
「はは、嫌われてしまったかな?」
にへらとミラギは笑い、アーリに話しかけるが、アーリもこれにはなんと答えてよいやら、口をつぐんだ。ミラギはそれからもぺらぺらと口を動かして、道中は彼一人によって随分と賑やかなものになった。それが幸か不幸であるかは、まだ分からない。
どれだけ歩いたか、周囲が霧に包まれているばかりで時間の変化が分かりにくい中、一行は平らな一角に辿り着きそこだけは霧が晴れて、環状に立ち並ぶ巨石が目を引いた。
「これはストーンサークルでしょうか、博士」
ネフェシュがアダマストラの解析装置を働かせながら後方のユヴァに問えば、ユヴァは忌々し気に頷く。
「ああ。ここではないどこかとこちらを繋げたり、あるいは地脈から魔力を吸い上げるのに用いられる定番の原始的な儀式形態だ。見ろ、サークル中心の空間から霧が滲みだしている。どうやら発生源とみて間違いはない。あの男の案内は間違いではなかったようだぞ」
氷が白い冷気を発するように霧がもうもうとサークルの中心から溢れ出していて、それは一旦地面に落ちてから地を這うように四方へ広がってから、立ち込めているようだ。ちょうどストーンサークルの周囲だけ、霧の晴れた状態が出来上がる発生の仕方だ。
「ふうむ、人影はなし。下手人は不明なれど原因と思しき場所には到達となりましたか。いやはや、そうなるとどうにかして霧の発生を防ぎたいところですが、拙僧らに手段があありますかな?」
「や、やはり、こういった儀式ですと儀式そのものをご破算にするのが、定番でないでしょうか、はい」
「私もアシャさんの意見に賛同いたします。サークルに用いられている巨石は霊的な力に守られてはいますが、我々の攻撃力ならば十分に破壊可能と推察します。また巨石の破壊で事態が改善されなかった場合には、博士による封印処置が次善の策であると進言します」
「ち、私に余計な労働をさせるのに躊躇がないな、ネフェシュ。まあいい。このうっとうしい霧に何時まで立ち込められていても、研究の邪魔にしかならん。特別に保険役をしてやる」
「博士は本当にどんな時でも変わらないなあ。それじゃあ、ミラギさん、何があるか分かりませんから、注意しながらあのストーンサークルに近づきましょう。ここであの霧の発生を防げれば、ミラギさんの仲間の人達も喜んでくれますよ」
そう慰めを込めて告げるアーリに、ミラギは変わらない陽気な笑みのままで答えた。
「ああ、私もそう思うよ。さあ、油断せずに行こう!」
今度はネフェシュ、アーリの二人で前衛を務め、中衛をウパウ、ミラギ、そして後衛がアシャとユヴァの並びに変えて、油断せず一歩ずつストーンサークルへと近づいて行く。霧の晴れている辺りの地面に異常は見られず、何かしらの罠が仕掛けられている様子もない。
ネフェシュとアーリがミラギに言われたからではないが、油断なく構えて巨石との距離を詰めて行き、ウパウの耳と鼻がピクリと動いた瞬間に、事態はアーリらが想定していた通りの局面に移った。
「敵襲、足音からして人型ですな。金属音と臭いは無し。霧の魔物と推察いたす!」
ウパウの報告と同時にアーリは霧の中でもある程度確保されている視界の中に、自分より頭一つ大きな人型生物の群れを捕捉した。
これまで遭遇した霧の魔物のように濡れた白い肌に、唇がなく赤い歯茎と白い牙がむき出しの口、毛髪はなく黄色い目だが六つ、縦二列に並んでいる。体つきは逞しい男性の者だが、手首から先には指の代わりに五本の細い触腕が伸び、両膝から下も触腕となっている。
アーリは、烏賊や蛸が人間に近い姿に進化した生き物のような印象を受けた。なまじシルエットだけならば人間に近いから、嫌悪感はこれまで遭遇したどの霧の魔物よりも強い。
「先手必勝と言うのだったかな?
真っ先に攻撃を仕掛けたのはこれまで大して役に立っていなかったミラギだ。杖の先端にある刃から、魔力の光弾を放って最も近い距離にいた人型の怪物の頭部を命中と同時に、光の爆発が吹き飛ばした。
「はっはっは、私だって少しはやるだろう?」
自慢げに笑うミラギにユヴァは実に冷ややかな反応をする。
「少しだけな。そうだな、ミストマンとでも呼ぶか」
「これまでとは少し違いますね!」
アーリはミストマンが指の触腕を伸ばして絡めて作った棍棒を左手の丸盾で受け、小剣で相手の腹を薙いだ。人型の姿をしているとはいえ、近づいてみれば人間とは打って変わった姿であるから、攻撃するのになんの躊躇いもない。
腹を斬られたミストマンはそれにもかまわず、まるで力を緩めない。
「こいつら、痛みや恐怖がないのか?」
ぬめぬめとするミストマンの右腕を丸盾の表面を滑らせるようにして受け流し、アーリは小剣を思い切りミストマンの腹部に突き立てて勢いよく引き抜く。
そうしてミストマンの足を蹴り飛ばして転倒させるが、それでもミストマンは動きを止めずに立ち上がろうとする。
「おまけにしつこい!」
立ち上がろうとするミストマンの左顔面を金属板で補強したつま先で蹴り飛ばし、そうして隙だらけのミストマンの顔面のど真ん中に小剣を叩き込む! 小剣越しに伝わる感触に硬いものはない。
「こいつら、骨がないのか?」
小剣を引き抜くと、ミストマンは今度こそ絶命した様子で仰向けに倒れ込み、無数の粒子へと崩れて消えてゆく。
「脳があったのか分からないけど、顔面の中心が弱点か?」
続けて二体、ミストマンが左右から分かれて襲い掛かってくるが、その片方にウパウの剛腕が投じた石が顔面、首、腹部に立て続けにめり込む。ミストマンが顔を庇うように両手で覆い、明らかに弱点と思しい反応だ。
ウパウはアシャから離れないように注意を払いつつ、根を腰に差し戻して、両腕が唸りを上げて投石を行っている。鍛え抜かれた獣人の腕は、ただの投石を必殺の武器へと昇華させている。とんでもない鬼札が居てくれたものだ。
投石を免れたもう一体が振るう触腕の武器を丸盾で受け、あるいは小剣で受け、そして屈んで避けた拍子に飛び上がるような勢いでアーリは小剣を切り上げて、ミストマンの顎下から鼻先部分までを切り裂く。
扱いやすいが間合いの短い小剣では、ミストマンの指先から伸びる棍棒や刃に間合いで劣る為、危険を覚悟して飛び込むしかない。
「どうだ!?」
どうやら顔面が弱点と見込んだのはアタリだったらしい。腹を斬られてもなんともなかったミストマンも、顔を斬られると苦悶に身を捩って倒れ込むのを見て、アーリは内心で喝采を上げた。
「よし、狙うなら顔面……」
と思って周りを見ればネフェシュは既に巨大な鉄拳でミストマンの頭部を叩き潰しており、どうやら声を大にして弱点を教える必要はないらしい。
ミストマン達の身体能力は鍛えた人間以上のものがあるが、それでもアダマストラ装備のネフェシュと暗黒神の祝福を受けるアーリには及ばない。
指先の触腕を鞭のようにしならせて振るうミストマンにミラギの炸裂光弾が命中し、両腕の先が吹き飛んだところにネフェシュが飛び込み、頭部を叩き潰してそのまま掴み、奥のミストマンに投げつける。
「僕も負けていられないな!」
【黒ノ一閃】を温存しつつ、アーリは周囲の霧から次々と姿を見せるミストマンの位置を把握するのに注意を払った。ウパウとアシャも背後からミストマンが出現する危険性から、アーリ達にやや遅れてストーンサークルに向かっている。
(キリバチやミツアシが出てこない。ストーンサークルを守っているのは、あるいは縄張りにしているのはあくまでミストマンってことか?)
アーリは槍のように細く鋭く突き出された触腕を弾き、それを左手で掴んで思い切り引っ張る。触腕はそのまま伸びるきりで、ミストマンはそのまま動かない。
当てが外れたのにはがっくりと来たが、それならばと触腕を手放して全力で駆け寄り、右の触腕を斬り飛ばし、こちらの首を落としに来た曲刀型の左触腕を返す刃ではじき返す。
そうして振り上げた左手の丸盾の縁を刃に見立てて、ミストマンの顔面に叩きつける。ミツアシの時と同様に密度の高い筋肉を思わせる感触だ。それに負けじと左腕に力を込めて、ミストマンの頭部を卵みたいに潰した。
「よし、今だ、皆!」
次々と姿を見せていたミストマン達の撃退がひと段落したのを見計らい、アーリは大声で叫んで一気にストーンサークルを目掛けて駆け出す。ネフェシュにウパウ、ミラギも同じように駆け出し、やや遅れてアシャも続く。
(あの大岩を斬れるか? 斬れる! 鉄も斬った。なにかで守られていたとして、だからって斬れなかったで済ませられるもんか。それにあんな岩一つ斬れなかったら、アンシャナ様に申し訳が立たない!)
ストーンサークルを形成する巨石は全部で十二。壊すのは一つでよいのか、全て壊す必要があるのか分からないが、どっちにしろ壊すのには変わらない。
だが最初の一つを壊すのはミラギになりそうだった。彼は足を止めて杖の先端を正面の大岩に向けて構え、炸裂光弾が既に形を持ち始めている。
「とりあえずまずは一つを壊すよ! いけ、炸裂光だ……がはっ!?」
だがミラギは炸裂光弾を放つことは出来ず、口から大量の血を吐き出した。ミラギの胸を霧の発生源の向こうから伸びた触腕の槍が貫いて、先端は背中から突き抜けている。
「ミラギさん!」
アーリが叫ぶのと同時にミラギの体は触腕の方へと引き寄せられ、その向こう側から触腕の持ち主が姿を見せる。
ミストマンの上位種と思しい、更に一回り大きな体の人型だ。表面が濡れ光っているのに変わりはないが、全身が鎧のように硬質化しており、更に頭部もまた兜のような形状をしている。瞳は人間と同じ位置に二つあり、色も黄色から青色といった違いがある。
そいつは右手で貫いたミラギを一瞥してから、アーリ達へと視線を動かす。
「新手! 明らかにこれまでの敵よりも格上です。ウパウさん、アシャさんの守りを!」
ウパウが足を止めて、新たなミストマンに目隠しの布の下の視線を向ける。彼の盲いた目になにが見えているものか。ユヴァはますます忌々しいと言わんばかりに小動物の顔を歪めており、新手の出現を歓迎していないのをこれでもかと表現している。
「サワガシイナ。モウスコシシズカニシテハドウダ? ドウセ、マモナク、ゼンインシャベレナクナルノダ」
「喋った!?」
それは多少聞き取りにくいが、紛れもなく新たなミストマンの発した言語だった。しかもアーリ達にも理解できるものだ。新たなミストマンは縦長の口から白い霧を吐き出し、面倒くさそうに喋り出した。
「フー、オマエタチノゲンゴハ、マダガクシュウトチュウダガ、ソレナリニハキコエルダロウ? ホンライハヒツヨウノナイコトダガ、コレデモエンカツニコトヲススメルタメニトオモッテノコトダ」
「ふん、勤勉家だと褒めて欲しいのか? ミストマン」
そう挑発するユヴァに、新たなミストマンは乗らなかった。
「フー、オマエタチハコノママキリニノマレテキエレバ、苦痛ナク死ネタロウニ。ダガ、アラガウナラバ苦痛ト後悔ヲアタエナケレバナラナイ。アア、ソレト吾ハ“ミストマン”ナドデハナク、“シギリ”トオボエテ死ネ」
シギリと自ら名乗ったミストマンが一歩を踏み出そうとした時、ウパウの巨体の影に隠れて太陽神へ祈りを捧げていたアシャが奇跡を起こした。
「いと高き座にて輝く太陽神ソルゼ、その大いなる輝きをお示しください。【燈火】よ、あれ!」
霧の魔物達にとって業火にも等しい太陽の光が、シギリに容赦なく降り注いだ.
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