第4話 女三人寄れば……
さて、こちらは合成鬼竜の上に残されたエイミ、リィカ、ヘレナの三人である。
「みんながいないわ!どうなってるのよこれ!」
「まあ、落ち着きなさい」
焦るエイミにヘレナは諭す。
リィカは外を覗き込んでいた。その目に映るのは巨大な浮遊大陸であった。その中心に位置する都市がエルジオンである。
「エイミサン、ヘレナサン、エルジオンデスヨ!」
時はAD1100年、高度に発達した科学技術によって運営されている。プリズマと呼ばれるものがそのエネルギー源である。
エイミも外を見た。
「本当だ……ニルヴァじゃないわ。ねえ、合成鬼竜、何があったの?」
「何かに干渉されて行けなかったようだな……時は超えられなさそうだ」
合成鬼竜の声が心なしか硬い。
「そう……いったい何だったのかしら」
「ニルヴァにはもう行けなさそう?」
エイミは再び彼に尋ねた。
「いや、それは同じ時代だから行けると思うぞ」
「うーん、もう一回行ってみてもらえる?」
「待ってエイミ。ニルヴァにいるとは限らないと思うのだけど」
「そうかもしれないけれど……」
エイミは言い淀んだ。
「まあデモいるカモしれませんシ、一旦行っテみまセンカ」
リィカの声はこんな状況でもいつでも変わらず明るい。アンドロイドなので変わりはしないのだが。
「そうねえ、行くだけ行ってみましょうか」
「頼めるかしら?」
「わかった。しっかりつかまっていろよ」
合成鬼竜に乗って彼女たちは再びニルヴァへと向かった。
☆
彼女たちはやはり特に問題なくニルヴァに到着することができた。目的地のマクミナル博物館はニルヴァで最も大きな建物であり、合成鬼竜の上からでもよく見える。博物館を建てたマクミナルを時代を超えて助けたアルドたちは、ここで色々と融通をきかせてもらえることもあるのだ。
合成鬼竜に待機してもらい、アルドたちを博物館を含めニルヴァの街中を探してまわる。
「うーん、やっぱりいないわね」
「アルドサンたちらしき生体反応、検知できマセン!」
「どこに行っちゃったのかしら」
一通り街の人たちにも聞いて回ったが、見た人はいなかった。
ヘレナは先ほどから気になっていたことを口にする。
「思うのだけど、やっぱり、アルド、フィーネ、ギルドナはAD300年にいて、サイラスは BC2万年にいるんじゃないかしら」
「何で?」
「さっきアルドとフィーネ、ギルドナ、サイラスの言っていることがわからなくなったわ」
「そういえばそうね」
「その中でもサイラスだけが一人混乱していて、他の三人は通じているようにみえたわ」
「そうだったかしら?」
「あなた狼狽していたものね。それに、合成鬼竜が時代を超えられないとなると、元々私たちがいた時代によって分けられてるんじゃないかと思って」
「そっかあ……ヘレナはさすがね」
「そうなると行くべきところは」
その時、リィカの声が割り込んできた。
「エイミサン、ヘレナサン、ワタシいい案を思いつきマシタ!」
「何?リィカ」
「ワタシたちはこのままマクミナル博物館で本を調べマショウ!」
いかにも一番の名案だとだとばかりの宣言である。
「え?」
「あら、それはいいわね、じゃあいきましょ」
ヘレナもリィカの言葉に合わせて、マクミナル博物館の方へ体を向けた。エイミはあわてて二人をとめる。
「いやいや、ちょっと待ってよ」
「何カ問題ガありマスカ、エイミサン」
なぜそういわれるかまったく心当たりがないような顔をしている。アンドロイドなので顔は変わらないが、そういった雰囲気である。
「問題ありまくりでしょ!」
「もともとワタシガお願いシテついてきてもらっテタだけデスシ」
「アルドたちのこと心配じゃないの!?」
「アルドサンならなんとかシマス」
「そうね、何も問題ないわね。そのうち迎えに来てくれるわよ」
「アルドサンハできる男デスノデ!」
根拠は、これまで様々な苦難を乗り越えてきた彼の経験値だけである。
「なにそれ!?」
「情報分析しテイル時間お待たせするノモ申し訳ありませんノデちょうどよかったデス」
リィカは意見を曲げるなんてことはまったくせず、ヘレナとともにマクミナル博物館に向かって歩き始めた。
エイミはがく然としたが、こちらも二人に付き合う義理などない。
「二人の薄情もの!……いいわ、わたしだけでアルドたちを探しに行くから」
その言葉を聞いたヘレナはしみじみとした。
「エイミ、あなた本当にアルドのことが心配なのねえ」
「そうよ。……何かいいたいことがあるの?」
ヘレナは一呼吸おいて、とても重要なことをいうかのように口にした。
「いえ、それは……恋心、というものかしらと」
「何の話!?」
エイミはぎょっとした。今この状況でする話題であろうか。リィカの声がいつもより高くなった。……気がした。
「恋デスカ!?よく恋トいうワードヲ聞きまマスガ……なるほど、エイミサンハアルドサンニ恋ヲしているノデスネ!」
「違うわよ!?」
ヘレナの言葉を鵜呑みにするリィカである。エイミはめまいがする。
「素直になればいいのに」
「だから違うってば!」
エイミは否定するが、ヘレナは止まらない。
「リィカ、ここだけの話なんだけど、アルドに恋している子が本当にたくさんいるのよ」
「そうなのデスカ!?」
「そうよ。その中にはまだ自覚していない子もいるみたいなのよ」
ヘレナはエイミをちらりと見た。
「ホウホウ、恋ハ自覚していなくテモするものデスカ、よくわかりマセンネ」
「最初はそうなんだけど、彼との時間を過ごすうちにいつの間にかね」
「なるほど、ちなみニアルドサンハ恋してるノデスカ」
「アルドはきっと何も考えてないわね。皆に優しいわ。それを勘違いする女の子たちが……ってとこ」
「アルドサンハとても仲間思いデスカラネ。確かに優しいデス。それガ女ノ子ニ勘違いヲさせる……アルドサンハ悪い男デスネエ」
リィカは全てわかったかのようにアルドを評する。なぜか二人の話に聞き入ってしまったエイミは、聞いてしまった。
「ねえ、そのアルドのことを好きなのって」
「あらエイミ、気になる?」
ヘレナの目がキラリと光った。
「!気にならないわよ!」
「?ではなぜ聞いたノデスカ?」
リィカは心底不思議そうである。
「な、なんとなくよ?話に乗ってみようと思ったのよ」
「エイミ、素直になると楽よ?」
「だーかーらー!……そういえば、あなたはガリアードとはどうなの?」
エイミは反撃した。
「フフフ」
「あなた人のことばっかりじゃない」
「人のことはよく見えるのよねえ……」
反撃はあまりうまくいかなかったようだ。リィカは恋の話題に興味津々になった。
「ワタシ、アルドサンニ恋ニついていろいろ聞いテ見たくなりマシタ!皆さんガどうなったカ気ニなりマスシ、探しニいきマショウ!」
「ちょっと、さっきと言ってること違うじゃない」
エイミはあきれた。
「そうデスカ?気ノせいデス」
「いやいやいや」
「そうね、気のせいね。合成鬼竜は時代は超えられないと言っていたから、次元の割れ目から次元の狭間へ行けないか試してみましょう」
「ソウシマショウ」
「さあ、エルジオンのエアポートへいきましょう」
「いや、まあ、探しに行くならいいんだけど……なんだかどっと疲れたわ」
サイラスはヘレナを静かだと評したが、意外とノリがよくおしゃべりなのはヘレナなのであった。なかなかないが女の子だけ集まったからかもしれない。
人間のエイミ、敵対していた合成人間のヘレナがずいぶんと仲良くなったものである。
☆
三人は再び合成鬼竜に頼んでエルジオンのエアポートまでやってきた。無機質な素材でできた一本道の道路が浮かんで点在し、カーゴシップでそれらの間を移動することができる。荷があちこちに積まれており、まさに空の港である。
三人は次元の割れ目があるところまでやってきた。しかし、
「あれ?」
「ないわね」
「そう甘くハありませんデシタカ」
どうみても目的のものはなかった。
「んー何か手掛かりはないかしら?」
周りを調べてみる。エイミは道路に横たわっている本に気付いた。
「あら?これは本?」
「こんなところに?……見るからに怪しいわね」
エイミは手にとった本をパラパラとめくってみた。
「めくってみたけど、真っ白。何も書いてないわ」
「これが鍵になりそうだけど」
「まったく動かないわ」
「本って動くかしら」
「魔物じゃないんですか?」
「魔物だったら動くだろうけど……」
三人は考え込んだ。
リィカがハッとする。
「本ガ苦手トするもの……火デス!火ヲつけマショウ!」
「え?それ燃えちゃうわ!」
「ちょっと焦がすくらいナラ読めマス」
「大胆すぎるわ、リィカ」
リィカは火をつけると、炎をそっと本に近づけた。チリチリとほんの少し本の端が燃え始めたその時、その怪しげな本はエイミの手から飛び出した。
「キャア!なに!?」
「正解デシタ!さすがスーパーアンドロイドである私ノおかげデスネ!」
「そんなのいいから!これ、なんとかしましょう!」
まったく動かなかったはずの本は勢いよく紙を三人に向けて飛ばしはじめていた。
☆
「ふう、思ったより手強かったわね」
「投げたはずの紙回収して何度も飛ばしてくるんだもの、永遠に続くかと思ったわ」
「紙ガ、ビュンビュン飛んでキテ凄かったデス。アア、ワタシノ乙女ノ柔肌ニ傷ガ……」
「あなたの肌金属じゃないの。しかも別に傷になってないわよ」
リィカは勢いよくエイミに振り返った。
「エイミサンニハ見えないンデスカ!?この傷ガ!?」
「いや、見えないってば……私が一番やられてるわよ。こんなのたいしたことないけど」
「あなたただの人間だからねえ。アルドに会えたら慰めてもらいなさい」
ヘレナの中では相変わらずエイミはアルドのことを好きなようだ。
「!別に慰めてもらう必要はないわよ!」
「それハ名案デス!」
「何が名案よ!それはともかく……この本どうする?」
「念のため持っていきましょう」
「そうね」
三人は本を倒したあと現れていた次元の割れ目へと飛び込んだ。
空はとても澄みきって美しい青色であった。
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