ある晴れた日に空を見上げたような


 あと一歩を踏み出せなかった。

 だからバイバイできなかった。


 公衆トイレで夜を越し、固くなった体のままに歩き出した。


 何も感じないまま、何処かへとただ歩く。

 手持ちはすぐに無くなり、だけども歩く。


 故郷の、もう帰れない東を目指して、歩く。


 昼と夜が過ぎて、空腹を感じなくなった。

 

 眩暈がして倒れた。


 枯れ草の中で、痛みを感じながら空を見上げる。

 青く晴れた空は、何も変わらない。


 俺がこの世界からいなくなっても、何も変わらない。


 俺は一人で、一人のままで、ここで死ぬ。


 意味の無い死だ。

 だがもう、意味など考えなくてもいい。


 それが嬉しい。


 悔しかったり悲しかったり、ただそれだけが脳裡に浮かんでは消えていく。

 もう抱えることは必要ないから、全部泡のようになって消えていく。


 霞んで、狭まっていく空に、手を伸ばせないまま。


 俺を覚えている者は誰もいない。

 俺が遺したものは何も無い。


 ただここで、ゴミになるのを待つのだ。

 そう、いつか見た、あの死体のように。

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