『  』へ。

 闇の中で、布団の中で、スマホの画面だけが明るい。


 探すのは場所。


 有名な場所から、マップに表示される場所、当たりを付けた場所へと、指を動かしてウェブの中を巡っていく。


 動機となるのは興味であり、何よりも効用、結果に対する期待。


 それは物見遊山の旅を考えるようで、穏やかな楽しさを感じる。


 日々からの解放を願い、非日常的な場所へと想いを馳せるという点では、やはり同じことなのだろう。


 ……。


 旅程は整い、荷物は用意した。

 リュック一つに満たないそれらを詰めたら、もう殆ど何も無かったが、部屋から人の影が消えて、無機質なただのワンルームになった。


 スニーカーを履く。

 久し振りの陽射しの中を歩く。


 無人の改札を通り、疎らな人々の中の一人になって電車を待つ。


 静かな興奮がある。

 それは待ちに待った映画を観るような、コミックを開くような感覚だ。


 もっと例えるものがあれば、洒落た独白になるだろうが、そのような物は無い。


 だから、かもしれない。


 欲望も、大きなものを持っている奴が、人生で勝ち上がっていくのだろう。


 結局、俺にとっては、全てが邪魔な障害物だった。

 

 静かに、眠るように。

 ただ穏やかな心地のままで。


 それができないから、全ては苦しいんだ。

 

 そして、そんなものを欲しがるから、今俺はここで、この時間に、電車の椅子に座っている。


 ガタン、ゴトン。

 ガタン、ゴトン。


『次は~』

 

 ガタン、ゴトン。

 ガタン、ゴトン。


『次は~』


 黄昏の世界。

 谷間に掛かる橋の上から眺めるのは、茜色に染まる木々と山の姿。


 もう何も思うことはない。

 もう何もあがくことはない。

 これまでだ。


 ここまでだ。


 さあ。


 バイバイだ。 

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