藻掻く水

 献血したときに貰った紙に、コップの中に残った水をこぼした。


 薄い赤色の上に落ちた水が震えている。


 ゆっくり、ゆっくり、紙の中へと消えて行く。


 傾けると、逃れようとするかのように、それは私の妄想だが、下へとゆっくり向かって行く。


 そんなにゆっくりしていたら、あなたは全部紙の中にきえてしまうのに。


 逃げなくちゃだめなのに。

 ほら、逃げなくちゃいけないのに。


 でも、あなたは、自分の意志では動けない。


 右手を少し上げると、少し速くなり。

 右手を下げると、染みの中へと戻って来る。


 私が支配者だ。


 空気の中に蒸発するよりも早く、この紙の中で殺してあげる。


 ゆっくりと、ゆっくりと。


 私は人間で、あなたは水だ。


 あなたに心があったとしても、私はそれを知らない。


 さあ。さあ。さあ。


 揺れる紙は、あなたを吸い込む、あなたを消す、残酷な揺り籠だ。


 消えろ。

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