あるいは誰もが雪の中で死んでいる

 寒さが強くなった。

 五月を過ぎた頃に、忙しさの中で、ぼうっとする瞬間に、旅の空を思い描くことがあるが。

 枝は雪を揺らし、屋根は雪を積もらせ、地面はまた雪に埋もれる、くすんだ曇り空を見上げるのは、何とも嫌な気分になるものだろうか。


 空想の景色を広げる。 

 世界のあれこれを載せた動画の中は、この寒さとは無縁のようで羨ましい。

 

 さて、とトイレに出るのも億劫であり。

 布団の中に籠り続けるならば、無情に時間が過ぎても惜しくはないと思える。


 咳の一つを吐く事が、肩身の狭くなった外の世界で。

 ならばこの部屋では、乾いた空気を厭い、咳の一つを鳴らしてみても、咎める視線を向ける者など居はしない。


 ゴホッと言い、ゴホッと言う。

 外は雪で、道を歩く人はいない。

 

 この世界に誰も彼もがいなくなっても。

 雪は降り、積もり、昼夜を白くするだけだ。

 それがやがて溶けて、消えて、この景色の中に多くの色が戻って来ても。


 誰もここにはいないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る