天道
酷く暑く、日射しの強い日だった。葉と葉の間をすり抜けた陽光が肌に突き刺さった。
長く長い休みに十九にして初めて放り出され、寄る辺なく近所の公園のベンチに座っている。バイトを探そうと思う。
酒や煙草を家からくすねでもすれば少しは恰好が付いたろうが、暑さのせいか、どうもそういう気分にもなれなかった。五百ミリリットル百円の缶コーラを傾け、俺はきっとさぞ気まずそうな顔をしていることだろう。
足元すぐ近くの砂場で三人の子供が遊んでいた。蝉と張り合うように声を上げながら。親は見当たらない、ごく近場に住む子なのだろう。歳の頃は五、六といったところ。一人は女の子で、あとは坊主だ。
バケツもスコップも放り出し、いそいそと、素手で摺鉢状に砂を盛っている。一人がどこかへ行ったかと思えば、小さな指先でなにかを摘んで帰ってきて、その辺りで何をしているかに気がつく。
蟻地獄。懐かしい。ただ蟻が動くのを無心で眺めるのも時間潰しになったし、かつて仲の良かったクソガキどもと、どの蟻が外に出られるか予想したのも盛り上がった。俺たちの小さなコロッセオだった。
焼き増したフィルムを回すように、小さな頃の俺のように、三人は息を殺してじっと蟻を見つめていた。その三人を、俺はじっと見つめていた。
声が消え、蝉時雨が明瞭になる。日本の夏。
やがて誰かの汗が砂にぽとりと落ちる頃、焦ったそうに図体のでかいのが立ち上がった。そいつがバケツを引っ掴んで言う。
「つまんねえ、水、入れてみようぜ」
二人は是とも非とも言わずただそいつを見上げて馬鹿みたいに口を開けている。
酷く暑く、日射しの強い日だった。
俺は、砂場に乗り込んで黙々と砂を積み上げ始める。城なんて作ったことはないが、作ってやろうと思った。大人ってのはすごいんだ、それを、チビどもに見せてやろうと思った。
「兄ちゃんヘタクソだなあ」
結果は無様なもので、ぐちゃぐちゃの崩れかけた山を見ながらでかいのが話しかけてくる。憐れむな。
「手伝ってくれないか?」
精一杯、不審さのないように頼む。子供たちは嬉々として、俺の作った山を囲んでああだこうだと言いだした。
親御さんが来たらなんと弁明すればいいか、そんな世知辛いことを考えながら砂を盛る。
首筋に日光を受ける。褒賞のように、太陽から熱が注がれている。
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