第62話 サトウキビの品種改良

 翌日の朝。

 朝食を食べ終わると、俺はヒマリに今日の予定について相談した。


「ヒマリ、今日はまたちょっと連れて行って欲しいところがあるんだが」


「いいですけどー、どこですか?」


「暖かめの気候の場所だ。具体的には、サトウキビが生えてそうなくらいのな」


 俺が考えている今日の予定。

 それは、サトウキビの栽培及び砂糖の生産だ。


 理由は一つ。

 みりんを作りたいからだ。


 みりん、日本食では醤油や味噌に匹敵するくらい頻出の調味料だからな。

 今まで作りたいと思ってもみりんが無いことで断念してきた料理がたくさんあったので、近いうちに作らねばと思っていたのだ。

 だが少し前までは、米が無いことにはみりんは作れないと思い断念してきた。

 しかし一昨日、ようやくまとまった量の米が手に入ったので、今日それに向けて動こうと思ったのである。


 それもあって、昨日農業ギルドでは全部の米を売りきらず、6トンほどアイテムボックスに残している。

 じゃあ早速作り始めればと言いたいところだが……みりんを作るにあたって、実はまだ不足している材料が一つある。

 醸造アルコール――もっと言えばその原料である廃糖蜜が必要なのだ。


 廃糖蜜とは、サトウキビを砂糖に精製する際にできる残糖分を含む液体のこと。

 その液体を手に入れるために、もととなるサトウキビを栽培しようというわけだ。

 副産物として砂糖もできるしな。

 砂糖、この世界ではほぼ貴族しか入手できないと言っても過言ではないくらい高いので、大量生産で価格破壊を起こして庶民が買える価格にできたらそれはそれで面白そうだ。


「サトウキビですね……。ちょっと待ってください。えーと……あっ、思い出しました。生えてるところ、知ってます」


「本当か! それは話が早くて助かる」


 ヒマリがちょうど目的に合う場所を知っているとのことだったので、俺はピンポイントでその場所に連れて行ってもらうことにした。


「定時全能強化」


 バフをかけて、いざ出発。

 数十分で、俺たちは目的地に到着した。

 確かに、そこに広がっていたのは一面のサトウキビの群生地。

 特に整備はされてなさげなので、他人の畑ということはないだろう。


 じゃあ、浮遊大陸で挿し木するための節を集めていくとするか。

 節が二箇所ずつつくように、サトウキビを適当な長さで切っていく。

 こうして切られたサトウキビの茎からは、環境を整えた土壌に置いておくと芽が出てくるのだ。

 サトウキビは通常1アールあたり330本ほど植えることになるので、4万倍して1320万本の切り株を……といきたいところだが、ここの群生地だけではそんなに調達できそうにないので、手に入るだけ集めて帰るとしよう。


「みんな、AGIのシンクロ率を最大に戻してくれ」


「「「はーい!」」」


 茎刈りを速やかに済ますため、シルフたちに頼んでAGIをフルに戻してもらう。

 今日のことを考え、昨日人生リスタートパッケージと百科事典を見ていると「単純作業自動化」という無意識に全速力で自分のやりたいことを済ませるスキルがあったので、それを発動してみた。

 一瞬意識が途切れたような感覚の後、ふと気がつくと、目の前には一定間隔で切られたサトウキビの茎の山が。

 アイテムボックスに収納してみると、その数は8万本にも上っていた。


 8万回もの作業を無意識に体感一瞬で終えられるとは……このスキル、便利だな。

 空を見る限り実時間もそんなには経っていなさそうだが、一応「約24時間かかってました」とかだとアレなので、どれくらい経ったかヒマリに聞いてみよう。


「ヒマリ、俺がサトウキビを切る作業をしてる間に何時間くらい経った?」


「何時間……? え、何の話をしているんですか……?」


 聞いてみると、ヒマリからは怪訝な反応が返ってきた。

 何の話、とは……?


「一瞬で一定範囲内の茎をバラバラにするスキルとか、そういうのを使ったんじゃないんですか?」


 戸惑っていると、ヒマリは不思議そうな声でさらにそう続けた。

 って、それって……もしかして何時間どころか数秒で終わっていた、ということか!?

 俺の質問を変に思ったの、それが原因だというのか。


「いや、AGIを上げれるだけ上げて一本一本切っていっただけなんだが。まあ実時間が大して経過していないってことなら、それさえ知れれば問題ないさ」


「え、そんなことやってたんですか!? それで今の光景って、いったいどういう速さなんですか……」


 作業方法を明かすと、ヒマリは口をあんぐりと開けて固まってしまった。

 そういえば……前回のダンジョンを経てからAGIフルで動くの、これが初めてか。

 自分でももはやどれくらいの速さなのか、正直把握してないんだよな。

 ま、速いことにこしたことはないのでそれでいい。


「みんな、もう作業は終わったからAGIを元に戻してくれ」


「「「おっけ~い!」」」


 必要ないシンクロ率を元に戻すと、俺はヒマリに乗せてもらって浮遊大陸に帰った。

 そしたら次は、栽培……の前にせっかくなので品種改良を挟んでおこう。


 超魔導計算機を起動し、取ってきた茎の遺伝情報をウェブカメラでインポートする。

 パラメータ調整を開き、検索バーに「糖度」と打つとそのまんまのパラメータが存在したので、バーの位置を最大まで動かしておいた。

 これで単位収穫量あたりの砂糖の生産量が上がったはずだ。

 あとは自分が住んでるところの気候を考慮して、「適正気候」のパラメーターを少し下げておいた。


 サトウキビに関しては、米や松茸みたいに大修正を加えるというよりちょっと微調整をするくらいのつもりだったので、遺伝子の改変はこれで終わりだ。

 あとはエクスポートして、シルフたちに遺伝情報の修正を実行してもらった。

 これでようやく栽培のターンだ。

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