第61話 ワイバーン周遊カードをもっと活用してもらおう

 米と味噌に関しては、現時点で市場に出回ったことがないものだからな。

 試食して、売れそうかどうかの判断をしてもらわねば。


「ところで……この味噌と米に関してなんだが。試食用に用意した料理があるんだが、食べてもらえるか?」


 そう言って俺は、今朝作った松茸ご飯と豚肉と玉ねぎの味噌マヨ炒めをアイテムボックスから取り出した。


「わ、わざわざ調理までして持ってきてくれたんですか? 大変恐れ入ります……」


「今回のものに関しては、生でそのまま試食しても価値が分からないからな。どういう食べ方をするのかと合わせて説明するために調理してきた」


 試食品を作った理由を説明し、二人に食べてみるよう促す。


「で、では……」


「では儂も」


 二人はそれぞれ、まず豚肉と玉ねぎの味噌マヨ炒めの方から口に入れた。


「こ、これはまた何というか新感覚の料理ですね……。こちらに味噌という調味料が使われているのですか?」


「ああ」


「非常においしいです! 最初は多くの人が何だこれって思うかもしれませんが……それでも良さを認知させたいと思う味でした!」


「儂もそう思う。ここまで身体にしみる料理は初めてじゃ」


「二人ともありがとう」


 まず、味噌の方はクリアのようだ。

 となると、今後本格的に量産していかねばな。


「じゃ、次こちらを行ってみます」


「では儂も」


 続いて二人は、松茸ご飯を口に運ぶ。


「えっ……こんなもちもちした穀物がこの世に存在していいんですか!?」


「何というか、不思議じゃな。初めて食べる食感なのに、こんなにも抵抗感なく美味しく感じられるとは」


「これは革命ですよ。確実に流行ります!」


「鑑定文にまで『味・食感が人間の味覚に最適化されている』などと表示されるだけのことはあるのう」


 無事、ご飯のほうも抜群の評価で受け入れられた。

 こちらは既に四桁トン単位で生産済みなので、このまま納品だな。


「それぞれの量だが、麦は42トン、大豆は10トン、人参は322トン、玉ねぎは456トン、じゃがいもは336トン、ごぼうは176トン、里芋は704トン、焼酎は5000リットル、酢は75000リットル、米は2480トンだ。数値に間違いは無いはずだから、確認はしたい場合だけしておいてくれ」


 俺はそう言って、今回納品する量を報告した。


「ありがとうございます……。まあそこは、マサト様なので信頼しますね!」


「そうじゃな。量も膨大で手間ばかりかかるし」


 二人は本当に確認しない方針に決めたようだが……まあ申告した数値に対してではなく売上ベースでの入金となるし、ルートも他の生産者とは分離独立してるから問題無いって側面もあるか。


「こちらコールさんが戻り次第、ワイバーン周遊カードと共にお渡ししますね!」


「ああ、それで頼――あ、そうだ」


「どうしましたか?」


 キャロルさんの口から「ワイバーン周遊カード」の単語が出たところで……俺は大事なことを一個思い出した。


「これも併せて渡しておいてくれ。この70枚には、中身は入ってない。純粋な移動用だ」


 そう言って俺がアイテムボックスから取り出したのは、空のワイバーン周遊カード70枚。

 そういえば、俺まだ最初の大豆とトマトの売上すら聞いてないくらいだしな。

 このままだと、どんどんギルドに在庫ばかり溜まってしまう。

 売上報告までの回転を上げるためにも、コールにはじゃんじゃんワイバーン周遊カードを使っていいというマインドに変わってもらわねばならないのだ。

 次農業ギルドに来たら渡そうと思っていたことを思い出せて良かった。


 ちなみに70枚だけなのは、今後もいろんな作物やら飲料やら調味料を収納して納品することを見越してのことだ。


「わ、わわわワイバーン周遊カードがこんなに……」


「圧巻じゃのう……。まるで国宝扱いだったことが嘘のようじゃ……」


 70枚のワイバーン周遊カードを見るやいなや、二人とも口をあんぐりと開けて固まってしまった。

 しばらくして、落ち着きを取り戻したキャロルさんからこんな提案があった。


「あの……もしよろしければ、こちら今からでもコールさんにお渡ししにスタッフを向かわせましょうか? こんなにもワイバーン周遊カードをお渡ししてくださるのは、相当売上報告を待ち遠しく思われているからでしょうし……」


「それはそうだが……可能なのか?」


 提案を聞いて、俺はそう聞き返した。

 そもそもここのスタッフ、今コールがどこにいるか把握しているのか?

 行くこと自体はワイバーン周遊カードを使ってもらえばいいとしても、そこがネックだと思うが……。

 そう疑問に思っていると、キャロルさんはそれを察したようで、こう説明を加えた。


「私たちがコールさんの居場所を知らないのではとお思いですか? それならご安心ください。マサト様、最初にこのギルドにいらっしゃった時、流浪の民用の追跡魔道具子機をつけてたじゃないですか。あれと同じ原理のものを、進捗管理のためにつけて頂いているんです」


 なるほど、そういう仕組みだったか。

 それなら確かに、今すぐワイバーン周遊カードを渡してきてもらうこともできるか。

 じゃ、そうしてもらうとしよう。

 そろそろ最初の作物の売上報告くらい聞いてみたいからな。


「それとも……マサト様が直接行かれますか? 専属行商人の契約者様であれば、ギルド外部の者であっても居場所をお伝えすることはできますが」


「いや、手間をかけて申し訳ないが、できれば今回はスタッフの方に行ってもらえると助かる。そのほうが、『伝達事項程度のことで気軽に使っていい、いやむしろ気軽に使うべき』ということが伝わりやすいと思うからな。もちろん、人件費なら出す」


「いえいえ、人件費なんてとんでもないです! 高品質な作物を大量に納品してくださって、私どもの方が非常に助かってますから。そして『いくら使ってもいいから早く売って帰って来てほしい』との旨、しっかり伝えさせていただきますね!」


 こうして、追加のワイバーン周遊カードが近日コールの手に渡ることが決定した。

 じゃ、これで今度こそギルドでの用事はなくなったので、おいとまするとするか。


「ではまた、次の作物ができた時に」


「今回は種を買ってはいかれないのですか?」


「ああ、今回はパスだ。今ちょっと品種改良にハマってるからな」


「今後もとんでもない革命が矢継ぎ早に起こると思うと怖いですね……。もちろん楽しみでもありますが! またのお越しをお待ちしております!」


 キャロルさんと鑑定士に見送られる中、俺はギルドを後にした。

 帰ってからは、鑑定結果を見た時からやろうと思っていた松茸の繰り返し栽培に一日を費やした。

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