第54話 稲の品種改良2

 あれだけ高性能なパソコンなら、ゲノム編集用のソフトウェアが入っていたりしてもおかしくない気はする。

 一応、探すだけ探してみるか。


 アイテムボックスから超魔導計算機を取り出して開き、スタートボタンを押してプリインストールされているアプリの一覧を表示する。

 か行までスクロールすると、「ゲノムエディタ」というまさにそれっぽいアプリを発見することができた。


 アプリを立ち上げると、超魔導計算機のウェブカメラが起動し、画面上に俺の顔が映った。

 画面右下のところには、「遺伝情報を取り込みたい植物をカメラの前にかざし、Enterを押してください」という指示が表示されていた。


 なるほど。カメラの前に稲をかざして、Enterを押せばいいわけか。

 俺は指示通り稲の遺伝情報をゲノムエディタに取り込んでみた。

 すると……画面上には「ATGCCGCAGACTAC……」とばかりに、塩基配列の羅列がズラリと表示された。


 ……さてと。問題はここから何をすればいいのか、だな。

 初めて使うソフトゆえに使い方が全く分からないので、とりあえずヘルプを参照しよう。

 画面上部のツールバーの一番右に「ヘルプ」という項目があったのでそれを押してみると、ゲノムエディタの使い方の説明資料が展開された。

 何から読んでいけばいいかも分からないので、とりあえず最初から順に読んでいくことに。

 しばらく読みふけっていると……なんとなくだいたいの手順が理解できた。


 基本的には、「パラメータ調整」というツールを使って、取り込んだ生物の性質を変化させていくことになるらしい。

 パラメータは取り込んだ生物によって変わるのだが、基本的に何千種類もの要素を細かく調整できるようになっているので、「変化させたいパラメータを検索→数値をいじる」という流れになってくるのだとか。

 また、人間のとって大事そうなパラメータを厳選して表示する「簡易調整」という項目もあるのだそうだ。


 そうと分かれば、早速やってみよう。

「パラメータ調整」のツールを表示させると、検索バーに「形」と打って検索してみる。

 すると「実の形状」という項目が出てきたので、俺は実を丸くする方向で調節してみた。

 その調整を終え、次にまた別のパラメータを調整しようと思った矢先……画面上に、「こちらも調整しますか?(サイズ)」というサジェストが出現した。

 ……そんな便利機能もあるのか。

 ちょうど調整しようと思っていたし、これもやっちゃおう。

 俺は米粒のサイズを若干大きくするよう調整した。

 パラメータ上はメロンサイズとかにもできるようになっていたが、流石にそこまで大きすぎても調理しづらいだけなので、極端な調整はもちろんしていない。

 あくまで日本の米のサイズに近づけるようにしただけだ。


 これで見た目の方はオッケーなので……次は弾力と粘り気だな。

 これに関しては、デンプンの配合によって調節が可能だ。

「デンプン」と打って検索すると、関連項目として「総デンプン含有量」「アミロース・アミロペクチン比率」の二つが出てきた。

 総デンプン含有量の方は70%となっており、これは日本のお米と同じ比率なので特にいじる必要がなさそうだ。

「アミロース・アミロペクチン比率」は、二種類のデンプンの比率なのだが……思った通り、現状はアミロースが95%、アミロペクチンが5%とかなりアミロース優勢となっているな。


 この二つについて簡単に解説すると、アミロペクチンは炊くと粘りが出るデンプンで、アミロースは炊いても粘りを出さないデンプンだ。

 タイ米などの外国のお米はアミロースが多めで、逆に日本のお米はアミロペクチンが多めとなっている。

 ちなみにもち米はアミロペクチン100%のお米だ。


 今回は一旦普通のうるち米を作りたいのであって、もち米を作りたいわけではないので、アミロペクチンを100%にはしない。


 じゃあどんな比率にするのかというと……そうだな。

 何種類か作ってみて、食べ比べて一番良いものを生産する方針でいくのがいいか。

 まずはアミロース23%、アミロペクチン77%に設定し、その設定を「保存」する。

 次にアミロース17%、アミロペクチン83%に設定すると、今度はそれを「別名で保存」した。

 そうして4種類くらいの比率のデータを作ったら……今度やるのは遺伝情報の書き出しだ。

 ツールバーの「ファイル」→「エクスポート」を選ぶと拡張子選択画面に来たので、精霊が読み込める形式である「.spr」という拡張子を選択し、書き出しを実行した。


 すると……数秒後。

 超魔導計算機から光の球が出現した。


「塩基配列ってのは、これでいいのか?」


「「「そうだよー!」」」


 光の球を見るや否や、シルフたちはそれを分け合ってムシャムシャと食べ始めた。


「みんな、わかったー?」


「「「うんー!」」」


 実際に食べたのは一体あたり一個とかなのだが、それぞれが食べた遺伝情報は互いに共有されているようだ。

 これで下準備は完了なので、品種改良を実行してもらおう。

 アイテムボックスからOryza Naturaleの苗をある程度取り出し、一合分のお米が取れそうな量の束を4つ作ると、俺はこう指示した。


「この束は『アミロ23』の遺伝情報に書き換えてくれ。こっちの束は『アミロ17』、そっちは『アミロ13』、それは『アミロ5』だ」


「「「はーい!」」」


 指示を出すと、シルフたちがそれぞれの束に何体かずつ集まり、稲に不思議な力を送り始めた。

 ちなみに先ほどの「アミロ〇〇」というのは、アミロース含有量別に付けた保存名のことである。


「「「できたよー!」」」


 一分ほどして、シルフたちはそう言って品種改良の完了を報告した。

 じゃあ早速これを植えて育てて、試食をしてみることにしよう。

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