第55話 稲の品種改良3

 俺は浮遊大陸に移動し、苗を植え始めようとした。

 が、その瞬間、ふと俺は一個大事なことに思い至る。


 そういえば……ここ、土壌が完全に畑だけど、実際米を育てようと思ったら水田っぽい地質にした方がいいよな。

 さっきは試しで育てただけだし、どうせ成長促進剤で一瞬で育てるなら大して問題にならないと思い畑で育てたが、本格的に稲作を始めるなら土壌にもこだわりたい。


 それ用に離島を作ったほうが良いだろうか?


 ……いや待てよ。よく考えたら、違う地質の土地を新規で作ることができるなら、同じように「魔力を注いで既存の土地の地質を変える」こともできるんじゃないか?

 せっかく起動状態になったままなので、超魔導計算機で浮遊大陸について調べてみると、確かにそのような方法での地質変更が可能っぽいことが判明した。

 しかも、新規での土地の作成・拡張に比べて十分の一の魔力で同じ面積を調整可能なんだとか。


 じゃあとりあえずお試しで……1アールくらい地質変更してみるか。

 地面に向かって念じながら軽く魔力を流すと、確かに10メートル四方の土地だけ水田に様変わりした。


 こりゃいいな。早速育ててみよう。


 水田に苗を植えると、俺はアイテムボックスから使いかけの成長促進剤400HA1Yを取り出しつつシルフたちにこう頼んだ。


「田んぼの区画の真上だけにいつもの雲をだしてくれ」


「「「はーい!」」」


 恵みの雨雲が出現したところで、成長促進剤を必要十分な量だけ投入する。

 みるみるうちに稲はすくすく成長し、立派な穂を実らせた。

 パッと見でも、米の粒の大きさはさっきの改良前と全然違う。

 形状も日本の米そっくりで、見ているだけで味への期待感が湧いてきた。


 逸る気持ちで工場に向かい、しかし比較検討をしなければならないのでちゃんと4回に分けて米を脱穀・精米した。

 早く食べてみたいので、「時空調律」で炊飯を時短しながら4種類の米を矢継ぎ早に炊く。

 テーブルに炊いたご飯をよそった茶碗を4つ並べると、いよいよ試食開始だ。


 さて、どれからいこうか……。


「まずはこれからか」


 俺は「アミロ5」から食べてみることに決めた。

 なぜなら、前世のどっかのタイミングで「うるち米の中でも特にアミロースの比率が小さい『低アミロース米』は美味い」という話を聞いた気がするからだ。

 その真相も確かめてみたいので、いちばんアミロース比率が低い物から食べてみることに決めたのだ。


「では、いただきます」


 口に運び、ゆっくり噛みしめる。

 すると……懐かしい食感が口の中に広がった。

 これだ、これこれ。このモッチリ感。

 やはり、米はこうでなくては。

 転生して以来ずっと欲してた味にようやくたどり着いたことで、俺は感動でいっぱいになった。


 続けて二口、三口と食べてみる。

 うん、やはり美味い。

 品種改良前の米と比べれば、天と地ほどの差があるぞ。


 しかし……何口も食べていると、なんというか少しだけ粘りすぎ感というか、餅臭さが気になってくるな。

 こういうのが一番好みだという層は確かに存在しそうではあるが、俺はもう少しアミロース比率が高いほうが好みな気がする。


 というわけで、次行ってみようか。

 俺は「アミロ13」「アミロ17」「アミロ23」も順に食べていった。

 結論から言うと……俺の舌に一番合うのは、「アミロ17」の米だった。

 餅っぽいわけでもなく、かといって固いということもなく、なんというかコシ○カリそっくりな味わいだったのだ。

「アミロ17」に関しては、贔屓目なしに日本で出しても新たなブランド米として通用するレベルだと思う。


「これ全部、『アミロ17』の遺伝情報に書き換えてくれ」


 アイテムボックスから残りのOryza Naturaleの苗を全て取り出すと、俺はシルフたちにそんな指示を出した。


「「「おっけ~い!」」」


 シルフたちの手によって、Oryza Naturaleは瞬く間に「アミロ17」に品種が切り替わる。

 これで、日本人にとっての死活問題が一個解決されたな。

 これからたくさん栽培していこう。

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