第51話 味噌、焼酎、そして酢

 待て待て待て。情報量が多いぞ。

 とりあえず、一個ずつ整理していこうか。


 まず「シルフに進化」というのが、ヒマリのお母さんが言っていた「更なる精霊の高み」の正体だよな。

 見た感じはというと、これまでお人形サイズだったドライアドたちが、今や皆5歳児くらいのサイズにまで成長している。

 衣装もなんとなく、前より気持ち豪華になった気がするな。


「ドライアドの元の固有能力が強化された」というのは……恵みの雨の効能が上がったとか、そういうことだろうか。

 単位面積当たりの収穫量が上がったり、あるいは例えばトマトだったらよりウルトラリコピンの濃度が上がったり、みたいなことが起こるイメージだろうな。


 そして地味にとんでもないのが、「作物の自由品種改良が可能となる」という部分だ。

 これってもしかして……適当なイネ科の植物から出発して、日本で食べていたようなお米を再現するところまで持っていけたりする能力なのだろうか?

 俺のイメージしているようなものだとしたら、かなり夢が広がるぞ。


 そして「変則進化で畜産関連の特殊能力を得た」、と来たか。

 今のところは、農作のほうでまだまだやってみたいことが山積みなのでそっちは後回しになるだろうが……いずれ何かしてみたいものだな。


 あとは「シルフの国の国家元首」と。

 悪い事は一切してないつもりではあるものの、インペリアルエリクサーの「善政」の判定がどういう基準なのかが不明なので、若干怖くはあるが……まあでも冷静に考えたら、万が一悪政判定を食らっても寿命があるうちはただ薬の効能が切れるだけなので飲むだけ飲んでも損はないか。

 ……でも不老トマトを毎日所定の量食べてたらそれで十分なので、やっぱ保留かな。


「おいしかったねー!」


「おなか、いっぱーい」


 当のド――シルフたちはそんなことを言いつつ、八割くらいがうたた寝モードに入ってしまった。

 色々頑張ってもらったんだし、しばらくそっとしといてやるか。

 品種改良がどうたらとかも気になりはするが、その前に今日収穫した麦と大豆で味噌と酢を作るのを先にやりたいし。

 寝ているシルフたちをよそに、俺は地上まで降下した。


 あ、そういえばあと浮遊大陸の面積拡張もやっとくか。

 俺の現在の魔力量では一日で400ヘクタールまで拡張できないので、とりあえず途中までということで。

 あとあと色々と魔法を使うことも考慮し多少は温存するとして、今日のところは20000ほどMPを注ぐことにした。


 それを終えると、味噌や酢を作るのに必要な材料を揃えるため、俺はアイテムボックスからアルティメットビニルハウスを取り出して地面に置いた。

 アルティメットビニルハウスで育てるのは、味噌と酢用のコウジカビと酢用の酵母及び酢酸菌。

 いつも通りの方法で、コウジカビを培養する。

 新しい成長促進剤のおかげで、欲しい量を一気に手に入れることができた。


 酵母については、収穫した麦に付着している複数種類の天然酵母のうち、鑑定の結果焼酎作りに最も向いているっぽいものを選択的に培養することにした。

 そして酢酸菌のほうは……確か、ミツバチの腸内に定着している的な話を聞いたことがあるな。

 試しにアイテムボックス内にあったウルトラハニービーの死体を解剖してみると、確かに酢酸菌が見つかったので、それを培養することにした。

 こちらも新たな成長促進剤のおかげで、これでもかというくらいの量を確保できた。


 これで必要な材料は全て揃ったので、俺はアルティメットビニルハウスをアイテムボックスに戻し、工場に移動する。

 移動してまず最初にやるのは、工場の設備の増設だ。


「特級建築術」


 スキルを使い、建物に五階と六階を建てる。

 五階を味噌工場、六階を酢工場とすることにした。

 しばらくすると建築が完了したので、早速工場内に入ってみる。

 五階に行くと、半分くらいは既視感のある設備が広がっていた。

 醤油と味噌は製法が途中までほぼ同じだから、ある意味当然っちゃ当然だな。


 それじゃあ、材料を投入していこうか。

 市販品としてこの世界の人々に受け入れられるかどうかはまだ未知数なので……とりあえず今日のところは、自分用+αくらいの量を作ることに。

 小麦5キロ、大豆5キロ、塩2キロ、麹適量、大豆に吸わせる&茹でる用の水をそれぞれの投入口に入れてから、水に浸かった大豆に「時空調律」をかけて水を吸わせる。

 茹でる工程が始まったところで、こちらは一旦保留だ。


 沸騰するまでに、酢工場の方に材料を投入していくとしよう。

 こちらはビネガーの亜種的な感じでこの世界の人々に高確率で受け入れられると思ったので、はじめから量産する方針に決めた。


 六階に上がると、まずは酢の原材料である焼酎を作るため、機械の投入口に小麦約10000キロ、麹と酵母をそれに合わせた量、水250000リットルを投入していく。

 工程は全自動なのだが、製麹や仕込み等ちょくちょく長時間寝かせる工程があるので、それらの段階に入る都度「時空調律」で短縮していくとしよう。


 再び五階に戻って、味噌作りの続きへ。

 大豆が浸かった水が沸騰していたので、「時空調律」で一時間半飛ばし、茹でる工程を終わらせる。

 機械が大豆をすり潰す工程を終えると、再び「時空調律」をかけてコウジカビを混ぜれる温度まで冷ました。

 そこにコウジカビ、麦、塩を加えてよく混ぜ合わせると、最後に麦味噌の標準的な熟成期間である6か月の期間を「時空調律」で飛ばす。

 これにて、味噌の完成だ。


 出来上がった量は、約15キロ分。

 俺は一旦浮遊大陸に戻ると、離島にて「超級錬金術」を用い、750グラムの味噌が入るパックを二十個作成した。

 そのパックに味噌を詰め、アイテムボックスにしまう。

 あとは、酢の方を完成させないとな。


 六階に行ってみると、既に蒸した麦にコウジカビを散布するところまで終了していたので、「時空調律」で時間を五十時間進めて製麹を完了させた。

 そしてそこに酵母を混ぜ合わせると、再度「時空調律」をかけて三週間ほど時を飛ばし、一気に仕込みを終えた。


 本来であれば、仕込みは麦麹に酵母を加えて繁殖させる「一次仕込み」と、一次仕込みを終えた物に蒸した麦を加えて発酵を進める「二次仕込み」の二回に分けて熟成させるのが普通らしいんだがな。

 どうせコウジカビが山ほどあるからと思い、麦全量を最初から麦麹にしてしまう「全麹仕込み」という手法を取ったため、今回は仕込みを一回にまとめることができた。

 今までの段階で、もろみの出来上がり。

 あとはこれを蒸留し、貯蔵熟成させれば焼酎の完成だ。


 気持ち軽めに「時空調律」をかけて早送りしながら、蒸留が終わるのを待つ。

 出来上がった量は、35012リットルだった。

 更にもう一度「時空調律」をかけて熟成を終えると、焼酎の完成だ。


 あとはこれを、酢にしていくわけだが……正直、多少は焼酎として残して飲みたいな。

 俺は30006リットルを酢の材料に、5006リットルをそのまま焼酎としてパック詰めすることに決めた。

 各6リットルは、売らずに自分で使う用だ。


 機械に30006リットルの焼酎と45000リットルの水、そして酢酸菌適量をセットする。

 いい感じに全ての材料が混ざったところで、俺は「時空調律」で酢酸発酵を進めた。

 ……なんか今日、「時空調律」ばっか使ってる気がするな。

 二週間ほど時を進めると、ちょうどいい具合の酸味となったので、これにて完成だ。

 製造工程が全部終了したので、容器を作りに浮遊大陸の離島へ。

 今回は、酢用に1リットル入りのガラス瓶を75006本と、焼酎用に1リットル入りのプラスチック容器を5006本作ることにした。

 ガラス瓶については良かったのだが、焼酎用のボトルを作っていると離島の地中深くの石油も枯渇してしまったので、新たに50アールほど離島を拡張して必要な本数の容器を揃えた。

 再び工場に戻り、焼酎と酢を容器に充填する。

 充填したものをアイテムボックスにしまって……これでようやく全部完了だ。


「うおっしゃあー……やりきった!」


 伸びをしながら外に出てみると、もう完全に真っ暗になっていた。

 こりゃ納品や品種改良は次の日に回すしかなさそうだな。

 今日は軽く夕飯を作って、食べて寝るとするか。

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