第18話 収穫目前へ

 そういえば……今の俺って、ステータスどうなってるんだろうな。

 ダンジョンで魔物を倒したんだし、ちょっとはHPやMPがふえてたりしてもおかしくはないはずだが。


 冒険者ギルドを出たところで、ふとそのことが気になった俺は、ステータスを見てみることにした。


「ステータスオープン」


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 新堂 将人

 職業:農家

 HP:25500/25500

 MP:4500/4500

 STR:1.6e+11 VIT:2.16e+71 DEX:1.35e+70 AGI:1.08e+71 INT:1.0e+10

 スキル:人生リスタートパッケージ

 特記事項:摂食(転生樹の実)

 テイム(ドライアド×112)

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 唱えると、いつもの半透明のステータスウィンドウが出現する。

 そこに書かれている数値を目にして……俺は目を疑った。


 なんだ、HP25500にMP4500って。

 たった4〜5匹しか魔物倒していないのに、もともと10だったとこからここまで上がるのかよ。


 それに……STRとかVITとかの値も、指数表記のせいであまり変わっていないように思えるが、地味にえぐい上がり方してるな。

 実生活に支障をきたさないようにと1億くらいまで落としてたSTRやINTが、1600億とか100億とかになっていて、調整が意味を成さなくなっているぞ。


 とりあえず……ドライアドにシンクロ率を変えてもらって、パラメーターを再調整しておこう。


「みんな、STRとAGIが1億になるよう、シンクロ率を調整してくれ。そしてINTも……」


 そう思い、そこまで言いかけたのだが……ここで俺はふと一つの案を思い付き、INTに関してはこうしてもらうことにした。


「INTに関してはシンクロ率をゼロまで落としてくれ」


「「「はーい!」」」


 INTだけシンクロ率をゼロにした理由。

 それは、自分の畑まで「飛行」スキルで飛んでいこうと思ったからだ。


 今まではMPが10しかなかったので、飛行での移動時間短縮は、やりたくてもできずにいた。

 なぜならMPが10だとすぐ魔力切れを起こしてしまうし、仮にそこを潤沢なINTで補おうとすると、魔法出力の高さゆえにスピードが出過ぎて目的地で止まれなくなってしまうからだ。

 だがMPが4500にもなった今、もう魔力切れの心配はなくなった。

 これからは低いINTでMPを潤沢に使い、ヒマリに頼るほどでもないちょっとした距離の移動を短縮できるのである。


 INTのシンクロ率をゼロにしてもらうのも、そのためだ。

 普通に街中を飛ぶには、1億ものINTはどう考えても過剰だからな。


 ドライアドたちによる調整が終わると……俺のINTは500まで下がった。

 もともと5しかなかったはずなんだが……魔法戦闘を一切してない割には、結構上昇したんだな。


「飛行」


 この状態でそう唱えると……10秒くらいで、鈍行の列車と同じくらいのスピードまで加速した。

 うん。街の中を移動する際は、これくらいが速すぎず遅すぎずちょうどいいな。



 ◇



 しばらくして、俺たちは畑の上空まで戻ってきた。


「アイテムボックス」


 早速俺は、そう唱えて収納から成長促進剤を一缶取り出したが……そこで俺はふと、一つ疑問が浮かんだ。


 これ……どうやって散布すればいいんだ?

 原液のまま1ヘクタールもの広大な土地に均一に撒ける気がしないが、かといって希釈は効果を薄めるためにすることなんだよな……。


 そう悩む俺に助け船を出したのは、ドライアドだった。


「そのえきたい、わたしたちがよぶくもにまぜれるよー!」


 ドライアドのうち一体が俺の悩みを察し、そう提案したのだ。

 かと思うと、ドライアドたちは恒例の祈りを捧げ始め……俺の畑の上空には恵みの雨雲が浮かぶ。


「ここにいれてねー!」


 雲の上側で待機していたドライアドがそう言って指したところには、「注入口」と書かれた不自然な穴があった。


 恵みの雨雲に液体注入口があるってどういうことだよ。

 まあでも、本当にこれ経由で畑全体に散布できるなら相当楽だし、細かいことはどうでもいいか。


「ありがとう。じゃあ、入れるぞ」


 俺は成長促進剤の缶の蓋を開けると、中の液体を雲の注入口に注ぎ込んだ。


「ごふんくらいで、ぜんぶまきおえるよー!」


 ドライアド曰く、散布には5分かかるらしいので、俺はその様子を地上から見守ることにした。



 地上に降りてみると……確かに、雨が降る様子はいつもと違っていた。

 いつもは無色透明の雨が降るのだが……今回は、若干紫がかった雨が降っているのだ。


 成長促進剤の原液がドロドロの紫の液体だったので、おそらくそれがちゃんと混ざっているということなのだろう。

 などと思案しつつ、地上をみる。

 すると……地上では、もっと変わったことが起きていた。


 今朝確認に来た時は、成長度合いは「ぼちぼち芽がでている」くらいだったのだが……今見ると、全ての作物が10cmくらいの苗に成長しているのだ。

 しかもそれだけでなく、それらの苗は、目に見えてみるみる新しい葉を広げ、成長を続けている。


 まるで早送りのビデオでも見ているかのような光景が、目の前で繰り広げられているのだ。

 成長促進剤を撒いているのだから、当たり前といえば当たり前なのだが……こうしてみると、なんか壮観だな。


「えーととりあえず……重力操作」


 そんな作物の様子を見て……俺は人生リスタートパックにあったスキルの一つ、「重力操作」を発動することにした。

 というのも、今から支柱を立てるなんて到底間に合わない。

 ならば、どうせすぐに収穫するのであれば、その間は重力を弱らせることで疑似的に支えてやればいいのではと考えたのだ。



 その甲斐もあってか……5分後には、すくすくと成長した作物たちが立派な実をたくさん実らせた。

 トマトはほとんどが完熟しているし……大豆の方も、枝豆としてなら今すぐ収穫できそうな雰囲気だ。


 とりあえず……収穫可能なトマト全部と、大豆に関しては半分だけ枝豆として収穫するか。


「よし、みんな、収穫するぞ! ……豆ゾーンは半分からこっち側だけな」


「「「「はーい!」」」」


 というわけで……ドライアドたちと協力しての、大規模な収穫が幕を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る