第17話 不用品売却で大騒ぎに

 ダンジョンから、畑に向かう途中のこと。


「あ、そういえば……あれ売ってくか」


 冒険者ギルドを通りかかったところで「yes!シンデレラクリニック」の存在を思い出した俺は、不用品の売却だけ済ませてから畑に向かうことにした。


「いらっしゃいませ〜。って、貴方この前ドラゴンの鱗を売りに来た方ですよね?」


 素材買取用のカウンターに並ぶと、前と同じ受付の人が業務を行っていたのだが……良くも悪くも、俺は彼女に覚えられていたようだった。


「本日は何を売りにいらっしゃったんでしょうか?」


「これだな」


 アイテムボックスから「yes!シンデレラクリニック」を取り出すと、俺は素材を置く場所にそれを置いた。


「またまたとんでもないアイテムの予感がしますね。もしこれが伝説の『灰かぶりの刹那の輝き』だったとしても、ワタシはもう驚きませんよ?」


 受付の人はチッチッと指を振った後、魔道具っぽいものを取り出すと、その上に靴を置いた。

 鑑定してみると、その魔道具は「鑑定装置」という魔道具だと分かった。

 ……あれで査定をするってわけだな。


 受付の人が言った伝説のアイテムとやらとは名前が違うし……今回は、期待外れだと思われてしまうかもしれないな。

 まあこれは副産物に過ぎないので、そこは許してほしい。

 などと思いつつ、俺は鑑定結果が出るのを待った。


 だが……待っていると、なぜか受付の人の顔がだんだんと青ざめていく。


「そ、そんなはずは……。これじゃまるで『灰かぶりの刹那の輝き』の完全上位互換じゃないですか……! こんなことがあっていいはずが……」


 受付の人は目を白黒させつつ、おそるおそる顔を上げながらこう聞いてきた。


「これ……いったいどこで入手したんです?」


「81階層だな」


 アイテムドロップはダンジョン内でしか起こらないとヒマリも言ってたし、「ダンジョンだ」という返答は求められていないだろうと思い、階層まで答える。


「はち……えええ!?」


 すると受付の人は、文字通り飛び上がってそう叫んだ。


「81階層って……どういうことなんですか! 最深攻略階層ですら44階層だというのに……」


 そうだったのか。

 なら魔物が逃げない階層まで行かずとも、50階層くらいからは「AGI任せに走って、逃げる魔物をとっ捕まえる」とかしても、人と衝突する心配はなかったのか。


 などと考えていると、受付の人は別の魔道具を取り出しつつこう聞いてくる。


「あの、もう一回答えてもらっていいですか? どこの階層でそれを入手したかを……」


「81階層だが……」


「……光りませんね。そんなことが……」


 受付の人の行動が不思議だったので魔道具を鑑定してみると、魔道具は嘘発見器だった。

 なんで嘘ついたと思ったんだ。冒険者じゃない俺が階層で鯖読んだところで、メリットなんか無いんだぞ。


「とりあえず……こちらの扱いに関しては、ギルド内で慎重に議論いたします。これ一つで、大貴族や王族の関係にとんでもない影響が出かねない代物ですから……」


 受付の人の人はそう言って、震える足でガラスの靴を事務室に運んでいった。

 要らないものを売って小金を手にするはずが、どうしてこうなった。



 しばらく待っていると、受付の人は一人の男(見覚えがあるので、確か副支部長だ)を連れてカウンターに戻ってきた。

 ……ギルドで会議とかして報酬を決めるんだったら、なぜこのタイミングで副支部長が出てくるのだろう。


 などと疑問に思う俺に、副支部長はこう質問した。


「貴方が81階層を攻略し、アイテムを持ち帰った方とお聞きしたのですが……実は別件で、一つ質問がありまして。先ほどとある冒険者から『ダンジョン内で見慣れない装置が見つかった』との報告を受けたのですが、心当たりはございませんか?」


 副支部長は、どうやら靴の件とは全く関係ないことを聞きに出てきたようだった。

 見慣れない装置、か。確証はないが……おそらくタイミング的に、アレのことを言っているんだろうな。


「その装置って、色んな階層を縦に貫いてる、全階層に扉があるやつのことか? それなら昇降機だが……」


「昇降機……ですか? ダンジョンにそんなものが発生するなんて初耳なんですが、一体何がどうなって……」


 俺の答えを聞いて、副支部長は神妙な顔つきになりながらそう呟く。


「階層移動が面倒だったから俺が作ったんだ。天変地異の予兆とかじゃないから安心してくれ」


 副支部長の表情が、あまりにも不吉な予兆とか勘ぐってそうだったので……安心させるために、俺はそう話した。

 すると受付の人と副支部長は、口をあんぐりと開けて顔を見合わせる。


「作った……!? 階層移動が面倒だから……? 動機の平凡さとやってることのえげつなさが釣り合ってなさ過ぎる……」

「天変地異じゃなかったとしても、やってることがそれに匹敵してますよね。そもそもダンジョンの人為的改造って意味わからないんですけど!?」


 いや、結構大事な動機だろ。

 副支部長の発言にそうツッコみつつも、二人の反応的にやっていいことだったのか不安になってきた俺は、一応こう聞いてみることにした。


「もしかして、勝手なことをしてマズかったか? それなら今から消してくるが……」


「いえいえ、人為的につくられた昇降機ということでしたらむしろ、残していただけた方がありがたいです。どうしても消したいと仰るのであれば止めはしませんが。むしろもし一般開放してくださるなら、利権料をお支払いさせていただこうと思うのですが、いかがでしょうか?」


 聞いてみると……副支部長は、慌てたように早口でそう口にした。

 怪しいものでないならむしろ、利便性を取りたいといったところか。


 別に俺は本業冒険者ではないし、エレベーターを独占するメリットは皆無なので、一般開放を拒否する理由はないのだが……まあ強いていえば、今後自分が使う際に順番待ちとかするようになるのは避けたいところだ。


「別に構わないぞ。ただ、週に一度だけは利用制限の日を設けてほしい」


 というわけで、俺はそう答えた。

 こうすれば、用がある場合はその日にダンジョンに向かうようにすれば、自分だけの都合でエレベーターを使えるからな。


「むしろ週に一度一般開放してくださるのでもありがたいくらいですから、その条件でしたら是非契約させていただきたいです! ……利権料ですが、我々としては年間300万イーサくらいでご契約できればありがたいのですが、いかがでしょう?」


「……それで赤字にならないのか?」


「その点は大丈夫かと! むしろそこを気にして微妙な額を提示してしまい申し訳ございません……」


 副支部長は快諾してくれたのみならず、利権料に年間300万イーサという破格の権利収入までつけてくれた。

 いいのか。あんなチャッチャと作ったものでそんなに貰ってしまって。


 というか、たかだかエレベーター一個で年300万もの経済効果を見込んでくれてるんだよな。

 悪い方に外れなきゃいいのだが……。


「では、ご契約のためギルドカードを見せていただいてもよろしいでしょうか?」


 などと考えていると、副支部長はそう言って話を進めだした。

 そこで俺は、一個思いついたことがあったので、それを聞いてみることにした。


「それなんだが……利権料の振り込みって、農業ギルド経由でしてもらうことってできないか?」


 俺がこんなことを聞いた理由は一つ。

 現時点では、俺は冒険者ギルドに個人情報を何一つ握られていないので……できればその状態を維持したいと考えたからだ。


 仮にあの靴が原因で、貴族や王族間でゴタゴタが起きたとしても、冒険者ギルドが「提供者不詳」としていてくれれば俺が巻き込まれるリスクはなくなるからな。

 そのことを考慮すると、冒険者ギルドが俺の正体を知らない今の状況は、俺にとってかなり好都合なのだ。


 だから、仮に「冒険者ギルドは農業ギルドに利権料を払い、農業ギルドにて俺が利権料の受取主であることを示す」という段階を踏めるのであれば、そうしたいと考えたのだ。

 前園芸用品店でキャロルさんから聞いたのだが、農業ギルド、守秘義務はかなり厳重にやってるらしいからな。

 そこを信頼してこの形を取ろうというわけだ。


「これほどの事ができるのに冒険者ではないって何者なのかと思ったら、農業従事者だったのですか……。分かりました。では、利権料の請求者の証としてこちらを差し上げます。これを農業ギルドにて提示してください」


 すると副支部長は、そう言って俺に割符の片側を渡してくれた。


「靴の価格はまた後日、だったな?」


「ええ。今すぐに決められる代物ではございませんから……。あ、どうせならその代金も農業ギルド契約がよろしいですか?」


「……それが可能ならそれで頼む」


 そして最後に俺は、受付の人とそんな会話を交わしてギルドの建物を後にした。



 ……なんか色々と大ごとになって疲れたが、気を取り直して成長促進剤の散布をしなければな。

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